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【書評】小川洋子「猫を抱いて象と泳ぐ」-ティム・バートンがこの物語を知ったら、必ず映画にするだろう

 

 今年始まったブログなので、遅まきながら去年のベスト本の話を。小川洋子の「猫を抱いて象と泳ぐ」だ。この物語は、外国映画の原作になってもおかしくない。監督は、そう「ビッグ・フィッシュ」や「チャーリーとチョコレート工場」のティム・バートン!彼の映画のテイストをこの小説に強く感じるのだ。読む者の想像力を喚起し、しかも、限りなく美しいストーリー。エンドクレジットが出るまで僕らは目を離せない。

 

 主人公は11歳の身体のままで生き続けている、リトル・アリョーヒン。「大きくなること、それは悲劇」、という警句を胸に彼は生きている。それは、大きくなり過ぎたため屋上から降りられなくなった象のインディラの逸話や彼にチェスを教えてくれたマスターの太り過ぎの悲劇、壁の間に挟まれたまま出られなくなったミイラと呼ばれる少女など、虚実入り交じった話から得た教訓なのだ。

 

チェスで非凡な才能を発揮した少年は、そのうち、チェスを指す自動人形の中にその小さな身体を隠し、様々な客と戦うようになる。そこでの彼のこだわりは勝ち負けではなく、棋譜の美しさ。彼にとっては美しさこそがすべてだった。淡い恋も織り交ぜながら描く伝説のチェスプレーヤーの軌跡、彼の人生はまさにその棋譜のように美しくはかない。これこそ小川洋子、といえる傑作です。

 

◎「猫を抱いて象と泳ぐ」は2011年7月、文春文庫で文庫化されました。

 

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