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【書評】川上未映子「ヘヴン」-「いじめ」を描く中で著者が語りたかったものは…大きな問いかけを含んだ問題作

 去年の話題作。川上未映子を読むのは初めて。大阪弁の小説も知らないし、芥川賞の「乳と卵」も未読だ。この物語はいじめを描いているけれど、それだけではなく、さらに大きなテーマをも含んでいる。

 

 ロンパリとあだ名されいつもいじめられている斜視の「僕」、そして、同じようにいじめを受け、「僕」と同志的なつながりを持つ女生徒コジマ。コジマは「僕」に対して、自分たちは弱いんじゃない、自分たちは何が起こっているのかちゃんと理解し受け入れている、それは「強さがないとできないことなんだよ」と言い、いじめられながらも精神的にどんどん強くなっていく。

 

 「僕」はいじめる側の少年百瀬と偶然出会い「なんで、…君たちはこんなことができるんだ」と詰め寄る。しかし彼は、斜視なんてまったく関係ないと言い、「べつに君じゃなくたって全然いいんだよ。誰でもいいの。たまたまそこに君がいて、たまたま僕たちのムードみたいなのがあって、たまたまそれが一致したってだけのこと」「自分がされたらいやなことからは、自分で身を守ればいいじゃないか」と平然と語る。百瀬のこの長い長い語りは、あるところでは共感さえ覚えてしまう。何より作者が語りたかったのはこの世界の理不尽さに違いない。「強者と弱者」「善と悪」、それだけでは片づけられない人と人との関係。様々な価値観。ラストは明るく希望を感じる終り方だが、胸の奥には重くどんよりとした気分が残る。その重さこそがこの小説の価値だと思う。

 

◎「ヘヴン」は2012年5月、講談社文庫で文庫化されました。

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