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【書評】絲山秋子「ばかもの」-不器用な男と女、彼らは生きたいと願い、愛したいと思った

 
 

 さて、「ばかもの」である。主人公の2人、ヒデと額子は2度出会う。若い頃の最初の出会いはただただ互いが欲しかっただけ。そして10年以上たった2度目の出会い、それもやはり互いが欲しかっただけ。でも、その「欲しがりよう」がまるで違うのだ。絶望しそこから何とかはいあがり、ふたたび求め合った2人。男はアル中になり、女は片腕を失い…。それでも2人は生きたいと思い、愛する人を必要とし、不器用ながらも互いを求めた。その結果としての再会。

 

 ラストの川のシーンが何ともいい。笑い声とかすかな希望、命の躍動、本当に本当に少しだけど明日への希望が生まれた男と女。その明るさがそこまで読んできた読者を救う。ヒデが時々口にする「想像上の人物」というのがすごくおもしろい。その不思議さも物語に奥行きを生み出している。

 

 ◎「ばかもの」は2010年10月、新潮文庫で文庫化されました。