また、本の話をしてる

おすすめ本の紹介や書評、新刊案内など、本関連の最新ニュースを中心にお届けします。

【書評】飯嶋和一「始祖鳥記」-綿密な考証と大胆な創作で描く、鳥人幸吉の物語

 「始祖鳥記」、これは江戸・天明の頃、空を飛ぼうと夢想し、それを実現しようとした男の話だ。所は備前岡山。男の名前は幸吉。物語はこの幸吉が捕らえられるところから始まる。以前から城下で話題だった怪鳥鵺(ぬえ)の正体はこの男だという。巨大な翼を持つその鳥は「イツマデ、イツマデ」と鳴いて藩の失政をあざ笑い、空を飛んでいたのだ。3部構成の第1部はそこから時代をさかのぼり、凧揚げが好きで手先も器用だった幼い頃の幸吉のこと、一度空を飛ぼうとした時のことなどをこまやかに描いてゆく。

 

 見事なのはここからで、第2部はまったく別の男たちの話になる。地廻りの塩問屋、巴屋伊兵衛。弁財船の船主、福部屋源太郎。2人は結託し、粗悪な塩の専売を許す幕府に一泡吹かせようと新たな塩ルートを開拓している。彼らがどう鳥人幸吉と結びついていくのか、ここがこの本一番のポイントだ。そして、話は怒濤の第3部へ。大団円になるラストで幸吉がつぶやく言葉は涙なしには読めない。ただただ空を飛びたい、と思い続けた男の最後の言葉。う~~~ん。

 

 ライト兄弟より百年以上も前に空を飛んだというこの男は実在したらしい。飯嶋和一は綿密な考証と大胆な創作で、ひとりの男の一生を浮き彫りにした。もうこれは見事というしかない傑作!

 

【書評ランキングに参加中】

ランキングに参加中。押していただけるとうれしいです。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ