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【映像化】揺れ動く虚と実、西川美和「ディア・ドクター」のおもしろさ

ニセ医者という発想、鶴瓶の起用に脱帽!

 昨年の本のベスト1は小川洋子の「猫を抱いて象と泳ぐ」だったが、映画のベスト1は西川美和の「ディア・ドクター」だ。今日同時に原作本扱いになっている「きのうの神さま」について書いたので、映画もぜひここで触れておきたい。

 

 西川美和監督、前作「ゆれる」は大傑作だが、「ディア・ドクター」もまた抜群におもしろい。ニセ医者を主人公にするという発想、主人公を笑福亭鶴瓶が演じるというアイデアには脱帽だ。ニセ医者伊野の失踪から始まるこの物語は、山あいの小さな村が舞台。この伊野という男、村では神様のように祭り上げられているが、本人はどこかおびえを抱えながら生きている。そんな彼の周囲が少しだけ変化する。ある事故の治療中、伊野の正体を知ってか知らずか彼に指図を出すベテラン看護師、死病を患う未亡人には大学病院勤務の娘がいた。さらにはやって来たばかりの研修医の存在。そんな諸々が引金となり、伊野の中で何かがはじけ、彼は失踪してしまうのだ。

 

 監督は失踪前の話と失踪後を交互に描くが、そのさじ加減が抜群にうまい。そんな中で浮き彫りになるのは、伊野自体の存在のあいまいさ。ニセ医者は本当にニセ者だったのか?周囲はそれを知っていたのか?知っていて受け入れたのか?揺れ動く虚と実。まさにこれこそが西川映画の真骨頂だ。鶴瓶はもちろんだが周囲が素晴らしい。瑛太、八千草薫、香川照之、しかし、ここでは余貴美子の看護師に◎を。彼女の演技には本当にぶっ飛ぶ。

 

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