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【コミック/感想】高野文子「黄色い本」-すべての本好きに!主人公は「チボー家の人々」を読み続ける少女

 僕の場合、好きな漫画家は岡崎京子、大島弓子、高野文子、よしながふみとなぜか女性ばかりである。この4人は甲乙つけがたいが高野文子のコミックはちょっと特別という気がしている。

 

 「黄色い本」は出版されている作品としては最新作。といっても初版は2002年だからすでに8年が経つ。寡作の人である。そして、高野文子は、オンリーワンの作家である。我が道を行くというか、孤高の人というか、彼女の「表現」はまさにオリジナルのものだ。フォロワーあるいはチルドレンは出てきてはいるが、今だ足元にも及びはしない。

 

 さて、「黄色い本」。全4作だがやはり表題作がずば抜けていい。黄色い本というのは白水社版の「チボー家の人々」のことで知る人ぞ知る「黄色本」だ。主人公である田家実地子は就職を控えた高3生、この作品の中で彼女は最初から最後までずっと図書館で借りた「チボー家の人々」全5巻を読み続けている。学校でも家でも登下校のバスの中でも。無類の本好きの彼女は、この長い長い物語を読むうちに小説の登場人物ジャックにシンパシーを寄せていく。そして、いつの間にか自らも物語の世界に入って行く。

 

 ジャックと言葉を交わす実地子、革命家たちの真ん中で檄を飛ばす実地子…。彼女がいるのは昭和の時代のいなかの村である。ジャックがいるのは第一次世界大戦前のフランス。時空間を超えて2人の思いが交錯する。繊細で痛々しいような感受性を持つジャック、そして、実地子の心もまた。

 

 高野文子の表現は、次元をヒョイと越えたり、平凡な日常の一瞬をスパッと切り取ったり、なんとも軽快で自在。それでいて、主人公の気持ちがしっかりと伝わってくる。すべての本好きにおすすめのコミック。それにしても高野さん、書き下し新作なんてファンが狂喜乱舞する本を出したりしませんかね。お持ちしておりますよ。

 

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