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【ノンフィクション/感想】佐藤多佳子「夏から夏へ」-北京五輪で銅メダルに輝いたアスリートたちの物語

 さて、前回紹介した「一瞬の風になれ」を読んだら、同じ作者が書いたノンフィクション「夏から夏へ」にもぜひ挑戦して欲しい。今回、集英社で文庫化されたのでチャンス。まぁ、順番はどちらからでもいい。どちらも傑作であることは間違いない。

 

 「一瞬の風になれ」で特に注目されたのが、100×4の400mリレーだ。この小説で初めて400mリレーをヨンケイ(四継)と呼ぶのを知った人も多いだろう。「夏から夏へ」で佐藤さんがとり上げたのは日本陸上男子のヨンケイである。夏から夏への最初の「夏」は、2007年8月の世界陸上大阪大会。そして、あとの「夏」が1年後の北京五輪だ。この世界陸上、覚えている人も多いだろう。全体的に低調だった日本陸上陣の中で唯一気をはいたのが男子の400mリレー。選手は塚原、末續、高平、そして、朝原だった。彼らは準決勝で日本新記録、アジア新記録を樹立。多くの人が注目した決勝では5位に終わったものの前日の記録をさらに縮め、アジア記録を再度更新という快挙を打ち立てた。本の前半はこのレースを中心に、4人のランナーそれぞれにについてていねいに描かれ、後半では彼らのその後、次の「夏」までの様子が書かれている。リザーブの小島茂之にもきちんと取材しているのがうれしい。

 

 佐藤さんの文章を読んでいると小説の題材ということ以上に、彼女は陸上が好きなんだな、選手たちが好きなんだな、ということを感じる。選手たちの魅力ももちろん大きい。本当にクレバーだし、精神力は並でなく、自分を追い込めるだけの強さがある。彼らの言葉を聞けるだけでもこの本は大きな価値がある。一つだけ残念なのは、五輪の前で話が終わること。メダルを取れるとは編集者も思わなかったのだろう。文庫化にあたって、何かプラスαがあるかもしれないのでそれにも期待したいところだ。

 

追記-文庫には佐藤多佳子さんと朝原選手の対談が載っていましたよ!

 

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