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【コミック/感想】こうの史代「夕凪の街 桜の国」-2つの物語を通して描く、広島とそこに生きる人々のそれから

 ヒロシマ、そして原爆をテーマにしたことで話題を集め、多くの賞を受賞したこうの史代のコミック「夕凪の街 桜の国」。この作品は、原爆投下から10年後の広島を舞台に皆実という女性を描いた「夕凪の街」と現代と過去を行き来しながら彼女とつながりのある人々を描く「桜の国」、2つの物語からできている。「あの事」を「いまだにわけがわからない」と思っている10年後の広島の人たち、しあわせだと思うたび、「おまえの住む世界はここではないと誰かの声がする」と感じる皆実。そして、彼女の次の世代にまで影響を及ぼす原爆の影。そんな苦しみの中、なんとか生き抜こうとする主人公たちの健気さ、たくましさが心を打つ。

 

 あの日のヒロシマから、今、現在まで、綿々とつらなっている思い、その思いは当事者でない、あるいは当事者ではないと思っている多くの日本人にも共有されているのか?という疑問が作者にはあったのだと思う。それをより普遍的なものにしたい、という強い気持ちも。だからこそこうの史代はこの作品を作れたのだ。2編をつないでゆく構成の巧みさ、個性的なキャラクター、ユーモアを忘れないストーリーなど彼女の漫画家としての力量がその思いを支えている。

 

 実は、絵のタッチは最初、自分の好みではないと思っていた。しかし、何度も読み直していくうちに、この絵があってこそのこの物語だ、と思い直した。欧米やアジアで翻訳出版され、映画化もされた傑作コミック。まだの人はぜひ一読を!!

 

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