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【書評】宮部みゆき「小暮写眞館」-死を通して描く生き続ける者たちの物語

 宮部みゆきの最新刊は4つの話からなる書き下ろし長編だ。ミステリーではない。僕は4つ目の話の途中でやっとそれに気がついた。心霊写真や幽霊の話が出て来るので惑わされるが、これは青春小説という呼び名の方がずっとずっとふさわしい。主人公の花菱英一は高校2年生。家族は父母と弟の光。花菱家は元写真館だった建物に引っ越し、なぜかそのままの状態で住んでいる。そこに持ち上がる心霊写真騒動…。

 

 青春小説と言ったがこの物語には実は3つの要素がある。ひとつは英一と仲間たちの青春物語。彼の周りにはテンコ、コゲパンをはじめ仲のよい男女が集まり、彼らとの交流が何とも楽しく描かれている。2つ目は花菱家の家族の物語、最初はよく分からないのだが、花菱家では英一の妹であった風子という女の子の死が暮らしの中に影を落としている。そして、英一の恋の物語。自殺願望を持つ垣本順子の存在が彼にはずっと気になっている。

 

 そんな3つの要素がひとつになり第4話で大団円を迎える。このラストは深く静かに読む者の心を揺さぶる。心霊写真、幽霊の話、風子や垣本順子の事など、この物語は死が身近にある。しかし、ここで宮部みゆきが描きたかったのは生きている者の物語だ。一日一日を自分なりに懸命に生き続けている人々。その強さや弱さ、痛みや悲しみ、ささやかな喜びと生きる勇気。死が側にあるからこそ、そんな生が浮き彫りになる。これは物語の名手宮部みゆきらしい見事な小説である。

 

◎「小暮写眞館」は2013年10月16日、講談社文庫で文庫化されました。

2010.8.1 昨日、なんと部屋の中で軽い熱中症になってしまった。一人暮らしの母に「室内でも熱中症になるらしいから水をちゃんと飲んで」なんて前にファックスしたのに。まさか自分がなるなんて…。

 

 

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