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本を読む前にひとつだけ知っていたことがある。桐島くんは人の会話の中にしか出てこない、はは~ん、ってことはつまり、一人の人間の不在を通して周りの人々や集団を語る、というスタイル?それは別段新しくはないが青春小説でやるのはおもしろいな、と僕は思った。ところが作者の朝井リョウは桐島くんは出さないが、その不在を積極的に利用しようとはしない。そこがいい。ヘンに頭でっかちにならず、身近でリアルな青春小説に仕上がっている。
進学校に通う高2生5人が各章ごと一人称で語る物語だが、映画部の前田涼也の章が図抜けていい。「高校って、生徒がランク付けされる」とうそぶく涼也。「目立つ人と目立たない人。運動部と文化部。上か下か」「目立つ人は同じ制服でもかっこよく着られるし、髪の毛だって凝っていいし、染めていいし、大きな声で話していいし笑っていいし行事でも騒いでいい。目立たない人は、全部だめだ。」、そして涼也は「自分で勝手に立場をわきまえている」。いじめとは違うこういう微妙な関係がストレートな独白で表現されていく。涼也だけではない。
ここに登場する17歳は、恋でも友や親との関係でも、常にデリケートなものを抱えている。彼らの心の痛みや迷い、戸惑いがしっかりと伝わってくる。
この小説、若々しい文体もいいし、方言も会話もいきいきしていて、本当にリアルだ。タイトルの見事さも含めて、まさに鮮烈なデビュー作。やはり高校生に一番に読んで欲しいが人との関係に疲れている大人の人々にもおすすめだ。
◎「桐島、部活やめるってよ」は2012年4月、集英社文庫で文庫化されました。
2010.8.9 今日の東京地方は気温が低め。おそらく30℃以下だ。暑い日々が続いてこういう涼しい日はホッとするのだけど、なぜか疲れがドドッと出ちゃう。今日はやたらと眠たかった。
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