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【書評】三崎亜記「となり町戦争」-見えざる戦争を描く筆致の見事さとテーマの奥深さに驚く

 三崎亜記のデビュー作「となり町戦争」、タイトルだけだと、となりの町との奇妙な戦争をユーモラスに描いたドタバタ喜劇、というような感じがある。だから最初は食指が動かなかった。しかし、小説すばる新人賞のコメントで井上ひさしが「このすばらしさを伝えるのは百万言費やしても不可能」、高橋源一郎が「こんな完璧に近い作品は新人でなくても一年に一つあるかどうか。選考委員は全員『すげえ!』とうなったと思う」なんてコメントしているのを読んだら、読まないわけにはいかない。結局、かなり早い段階で手に取ったと記憶している。

 

 予想していたのとはまったく違い、これは静謐で抑制された文章で綴られたリアル感のまったくない戦争の物語だった。主人公は町の広報の「となり町との戦争のお知らせ」で開戦を知るのだが、周りはまったく変わりなく、通勤でとなり町に入っても何が起こるでもない。そんな中で広報に載る死者の数だけが毎日確実に増えていく。そして、ある日、主人公は敵地偵察を任じられることになり…。

 

 その発想と展開力にも驚くが、見えざる戦争を描く筆致の見事さと最終的に描き出されたテーマの奥深さに驚いてしまう。現実というものの不確かさ、その中でひそかに始まっている戦争、その戦争にいつのまにか加担している自分たち…。恐るべし三崎亜記!!と読み終えたとき、僕は本当にうなった。

 

 その後も出版された全作品を読んでいるのだが、残念ながら「となり町戦争」を超える小説は生み出されていないような気がする。あまりに情緒的になるのはどうなのだろうと思ったりするのだが…。

 

2010.8.9 台風接近で久々の雨。犬の散歩なし!草屋根の水まきなしで幸せな一日。このまま涼しくなればいいのになぁ…。あ、台風は熱帯低気圧になっちゃった。

 

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