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【ノンフィクション/書評】小林信彦「黒澤明という時代」-野村芳太郎の言葉に勇気を得て書かれた黒澤映画論

 「黒澤明の作品論なんて書くつもりじゃなかった」という小林信彦がなぜこの本を書いたのか。その答えが最終章にある。この話はちょっとすごい。「羅生門」「生きる」「七人の侍」の脚本家である橋本忍に対して監督でこれも黒澤さんとの関わりが深い野村芳太郎が面と向かってこんなことを言ったのだ。「黒澤さんにとって、橋本忍は会ってはいけない男だったんです」「そんな男に会い、「羅生門」なんて映画を撮り、外国でそれが戦後初めての賞などを取ったりしたから…映画にとって無縁な、思想とか哲学、社会性まで作品へ持ち込むことになり、どれもこれも妙に構え、重い、しんどいものになってしまったんです」。これ本人に言ったんだよぉ…怖い人だなぁ、野村芳太郎。

 

 このあと橋本が先に書いた3本の映画を持ち出し反論しようとすると、「それらがなくても、黒澤さんは世界の黒澤になっています…」と断言する。いやはや、いやはや。

 

 「黒澤明という時代」は小林さんがこの野村氏の言葉に勇気を得て書いたものである。つまり、小林信彦も野村芳太郎と同じようなことを感じていた、ということだ。しかし、それは「リアルタイムで黒澤を見た人間」でないと理解できないものなのだ。だからこそ、封切時の評価を残しておく必要性を小林さんは感じたのだろう。「姿三四郎」から「まあだだよ」まで、作品の評価と観客の反応を読んでいくと当時はこうだったのか、と驚くことが多かった。これは、黒澤ファン、映画ファン必読の一冊である。

 

◎「黒澤明という時代」は2012年3月、文春文庫で文庫化されました。

2010.9.14 民主党代表選、菅首相が勝ちましたね。これからどうなるのかな?挙党態勢なんて言ってるけど、真っ二つになっちゃったし…。

 

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