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【コミック/感想】谷口ジロー「冬の動物園」-挫折を知る兄とのエピソードが切ない!作者の自伝的コミック

谷口ジロー「冬の動物園」

 

 独特のテイストを持つ谷口ジローが描いた自伝的なコミック。こういう漫画家物語というのは大体おもしろいのだが、谷口となるとさらに期待は高まる。彼の語り口は「歩む」ような感じがあって、なんだかいいのだ。「歩む」というのもおかしな表現だが、自らにゆっくりと問いかけるような感じ、けっして先を急がずうつむきがちに歩いているような、そんな表現。「散歩もの」という名作もこのスタイルがあってからこそだ。昭和の時代の一青年の物語を語るのにもこの語り口はぴったりだと思った。

 

 昭和41年の京都、そして上京した昭和42年の東京から物語は始まる。当時の風俗など背景的なことはもちろんのこと、10歳年上の兄、アシスタント仲間、マンガ雑誌の女性編集者など人物が見事に活写されていて物語がいきいきとしている。京都時代の社長の娘とのエピソード、プロになるための投稿漫画の話、茉莉という娘との淡い恋もなかなかいい。

 

 しかし、僕が一番魅かれるのは、兄が上京したときのエピソードだ。父親がわりで怖いとさえ思っていた兄が初めて語る自分の夢。画家志望だったという兄は、メチャクチャとも思える弟や彼の友人たちの暮らしに理解を示し「こういうんが、自由いうんですかねえ」」と憧憬の言葉すらもらすのだ。夢を生きる主人公と挫折を知るその兄、そこで交錯する様々な思いが読む側にも伝わって来て、なんとも切ない。

 

  

2010.10.16 これで紹介した本が100冊になりました。どこかに書評ブログは100冊越えれば一人前なんて書いてあったけど本当かな??

 

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