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【書評】吉田修一「悪人」-何よりも2人の愛の強さに圧倒される!

 映画も好評の「悪人」を読む。とにかく、これ、読後感が圧倒的!究極のラブストーリーと呼びたい傑作小説だ。祐一と光代は携帯の出会い系サイトを通じて出会った。遊びではなく、彼らは互いに自分を必要とする異性を強く強く求めていたのだ。そして、激しく惹かれ合った。彼らが出会うのは実は第三章、すでに3分の1を過ぎてからだ。

 

 第一章で語られるのは、福岡と佐賀の県境で起こった女性の殺人事件について。被害者石橋佳乃のこと、その両親のこと、容疑者の男たちのこと。祐一は佳乃とも出会い系を通じて知り合い、殺人が起こった夜、彼女と会っている。第二章では祐一のこと、その生い立ち、彼を育てた祖母のことなどが語られる。そう、祐一と光代は「事件」のあとで出会うのだ。この出会い以降、物語はグンと熱を帯びてくる。付き合い始めて、彼らが周囲に見せる「幸せそうな顔」、その描写が心に残る。そして祐一は光代に事件の真相を語る…。「俺、もっと早う光代に会っとればよかった」「ここで祐一と別れたら、私にはもう何もないたい」、どうにも離れられない2人の逃避行が始まる。

 

 確かにこの愛は刹那的なのかもしれない。それでも、2人は激しく求め合っている。この愛の強さに僕は何よりも惹かれる。「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい」と娘を殺された父親はつぶやく、「これまで必死に生きてきたとぞ」と祐一の祖母は叫ぶ。話の終盤で2人の老人が吐き出すこれらの言葉はこの物語を俯瞰するような強い思いが込められている。

 

 少し古めかしいようなスタイルと全編九州弁で語られる言葉が物語を際立たせる。タイトルを「悪人」としたことで、誰もが悪人であるというような意図を作者が持っているようにも思うが、その点は自分はまったく感応しない。ただただこの愛の姿に心を打たれるのだ。

 

 

2010.12.7 今、読んでるのは朝井リョウの「チア男子!!」、前半はちょっとイライラ。次はジェフリー・ディーヴァーの「ロードサイド・クロス」の予定。あ、8時から海老蔵の会見だって。

 

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