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【書評】デイヴィッド・ペニオフ「卵をめぐる祖父の戦争」-若さの輝きとたくましさを描いて見事な小説!

 著者の祖父の話、という形で綴られる物語。ハヤカワのポケミスから出ているので昨年のミステリーベストテンにも選ばれてはいるが、ミステリーの要素はほとんどない。裏表紙に書かれている「歴史エンタテインメントの傑作」という言葉が一番ピンと来る。

 

 さてこの物語、時は1942年の1月、場所はソビエトのレニングラード、ドイツ軍がここを包囲した壮絶なる「レニングラード包囲戦」の真っただ中での話だ。主人公のレフは17歳、なぜか拘置所に入れられるはめになった彼は、そこで脱走兵のコーリャと出会う。彼らはなぜか秘密警察の大佐に呼ばれ、娘の結婚式のケーキのために卵を12個調達してくることを命じられるのだ。期限は1週間以内。もちろんそれは、命のかかった任務である。

 

 何と言っても素晴らしいのがこの2人の造形。詩人を父に持つレフは恐れとおののきを持つ硬派な17歳、一方のコーリャは口から先に生まれたようなお調子者。この2人がなんだかんだいいながら卵を求めてさまよう姿はこっけいでさえある。若者らしいバカ話を繰り返す彼らだが、人肉を売ろうとする男女や娼婦にしたてられた少女たちなど悲惨な光景を目の当たりにすることになる。そしてパルチザンたちとの出会い。そこで彼らはヴィカというめっぱう銃のあつかいがうまい女の子と出会う。彼女に対して特別な感情を抱くレフ。そして彼らはドイツ軍の捕虜の一群にまぎれこみ…。

 

 卵の話が中盤でかなりあいまいになってくるのでどうなることか、と思っていたら、最後になってやっと「卵」に話が戻って来る。この終盤の盛り上がりは見事!ドキドキするぐらいおもしろい。そして…結末は。後日談的な最終章も素晴らしい。もちろん、ラストのひと言も。

 

 読み終えたらぜひ序章に戻ってみるといい。この小説、反戦的な要素もあるのだが、若さの輝き、そのたくましさを描いて見事。これからも時々、レフとコーリャ、そしてヴィカに会いたくなってページを繰ることになりそうだ。

 

◎この本は2011年12月、ハヤカワ文庫NHで文庫化されました。

2011.3.23 やっとなんとか書けた。本を読むことに逃避しているような毎日。東京にいる自分がこんな感じじゃしょうがないのだけど。今、読書は絲山秋子「末裔」。

 

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