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【書評】佐藤泰志「移動動物園」-作者の確かな実力を感じさせる短篇集

 さてさて今大注目の佐藤泰志、今度は3編の小説が収められた「移動動物園」を読んだ。これを読み、やはりこの人は力のある作家だと再認識した。もう少し早くその存在に気がつくべきだったのかもしれないが、しょうがないのかなぁ…ううむ。表題作は1977年発表でこれが佐藤の文芸誌デビュー作、2編目「空の青み」が82年「水晶の腕」が83年発表だ。

 

 「移動動物園」はデビュー作といってもとりたてて気負いのようなものは感じられない。とはいえ、この3編の中では今一つの感が強い。描写があまりにこまかすぎるというのもあるし、登場人物に魅力がない。飛び抜けてよかったのは最後の「水晶の腕」だ。この3編に共通し、佐藤泰志の小説のひとつのパターンともいえるのが、不安定な現状、その現状をていねいに描く事で見えて来る心理的な不安、そこに差すかすかな希望、というような流れがあるのだが、それが一番うまく描けているのがこの「水晶の腕」だ。機械梱包工場で働く青年を主人公に職場の仲間たちや恋人とのやりとりを通して、彼の刹那的な暮らしが見えてくる。職場の様子が見事に活写されているのがいい。仲間たちの造形もなかなかだ。「空の青み」はマンション管理人とエジプト人一家との出来事を描いた都会的な一編で珍しい。

 

○佐藤泰志の他の本の書評などはこちら

 

               

2011.5.12 読書は山田太一の「空也上人がいた」を読み終え、伊集院静の「いねむり先生」へ。山田作品、これ感想書けるかなぁ。ううむ。

 

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