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【書評】伊集院静「いねむり先生」-色川武大を描いて、これは年間ベストを争うであろう傑作!

 これは今年読んだ新刊の中ではベスト、おそらく年間のベストを争うことになる傑作だ。「いねむり先生」とはあの色川武大(阿佐田哲也)のこと。この小説は「先生」と呼ばれ、会えば誰もがその魅力に取り憑かれる色川の物語であり、同時に、妻の死のショックから立ち直れないでいた作者の復活の物語でもある。2つの話が交錯することで、物語は奥行きを増している。

 

 それにしてもここで描かれる色川は本当に魅力的だ。作者や友人たちとの会話を読んでるだけでいい気持ちになれる。邪心がなくまさに「大人(たいじん)」の風格。しかし、彼には持病があり、精神的な病もある。作家として悩み続ける姿も含めて、ここでは色川という人間がまるごと描かれている。そこが素晴らしい。

 

 作者が色川と出会ったのは、女優の妻を亡くし、やり場のない憤りと虚脱感で酒とギャンブルに溺れ、そこから何とか這い上がりつつある頃のこと。色川が伊集院のことをずっと気にかけている、その気にかけ方がまたいい。トピックは2人で何度か出かける競輪の「旅打ち」だろう。一宮では行きの新幹線で先生が富士山を見ておかしくなっちゃうし(先端恐怖症らしい)、着いてからは「街の女」に激しく罵倒されたりする。松山では釣宿の主人との交流が何ともいい。「あの人は宝じゃから」とさりげなく語るこの漁師が素敵だ。そして、弥彦の旅。つらい過去を持つ男との出会い。作者はここで、まさに先生の手によって長年悩まされ続けてきた悪夢の発作から解放されるのだ。

 

 文中ではKさんと呼ばれる黒鉄ヒロシ、Iさんと呼ばれる井上陽水とのエピソードも心に残る。作者がずっと小説は書けないと言い続けているのも印象的だ。そして、最後の「再会」のエピソード。この小説では人間そのものがゴロリとまるごと描かれている。その「まるごと感」が読むものを魅了して離さない。これはなんともすごい小説である。「いねむり先生」というタイトルだけが僕には何だかピンと来ない。それだけが残念。

 

◎「いねむり先生」は2013年8月、集英社文庫で文庫化されました。

2011.6.2 昨日は愛犬ひなたの歯の手術。もう一回あるが大変な方は終わって一安心。しかし、小動物に麻酔というのはヤなもんだなぁ。昨日も醒めてからフラフラしてた。単行本50冊ぐらいの手術費、あぁ。

 

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