「週刊文春」連載のこのエッセイも単行本化はこれで13冊目。去年の分をまとめたものだが、この連載中に600回を迎えている。たいしたものだ。さて、このエッセイ、時代の定点観測という意味で大きな価値がある。観測者が78歳の老人(いつの間にか)というのも大きい。小林信彦は元編集者、放送作家で笑いやエンタテイメントに造詣が深く、しかも、世の中に迎合しない硬派な一面がある。だからこそ、このエッセイは読む価値があるし、すこぶるおもしろいのだ。2010年に何があった?を知る時に、新聞の縮刷版を見るのもいいが、彼のエッセイで時代の裏に潜む気分を知ることも大切だと思う。
さて、小林流2010は、と言えば、まずは検察と大マスコミによる小沢叩きに呆れ、検察のリークを嗤い、双葉十三郎の死を惜しみ、加藤ローサの足を論じ、旬の若手女優三人として貫地谷しほり、綾瀬はるか、堀北真希をあげ、久々の千鳥ケ淵のサクラを愉しみ、仲里依紗に注目する。
映画は「ゴールデンスランバー」「インビクタス」「ハート・ロッカー」「借りぐらしのアリエッティ」、舞台は「上海バイスキング」に「ドリームガールズ」。冷やし中華を語ったと思えば卵かけごはんブームに暗澹とし、谷啓の死を悼み、60年代のピーター・フォークを語る。この本のタイトルになっている「気になる日本語」についての話は7週にも及び、俎上に載ったのは「悩ましい」「がっつり」「ムカつく」「なにげに」「こだわる」「カミングアウト」などなど。そうよ!そうよ!そうなのよっ!やっぱりこれは必読だ。
○このエッセイは2014年1月、「伸びる女優、消える女優 本音を申せば7」と改題して文春文庫で文庫化されました。
2011.6.27 吉祥寺は午後になってもまだ雨が残っている。犬は散歩に行けないのでふて寝中。読書、佐藤泰志に戻り「大きなハードルと小さなハードル」を読み始めた。
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