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【書評】上林暁「星を撒いた街」-読めば読むほど味わい深く、読めば読むほどイメージが広がる

 

 私小説作家である上林暁の作品集が「昔日の客」の夏葉社から出た。上林は名前は知っていたが読んだことはない作家。こういう形で傑作集が出るのはとてもうれしい。編者は古書店店主であり希代の本読みでもある山本善行氏、期待も高まる。

 

 まずこの本、装幀がいい。昔、おやじの書架の中にこういう装幀の本を見かけたことがあった。色のトーンも何ともいえずいい。側に置いておくだけで幸せな気分になる。「30年後も読み返したい」という帯のコピーに心ひかれる人も多いことだろう。

 

 上林には病妻物と呼ばれる作品群があり傑作が多いらしいのだが違った魅力も感じて欲しいという編者の思いから、病妻物は全7作のうち2作。さすがにこの2作は良くて、何度も読み返したくなる。

 

 個人的に好きなのは巻頭を飾る「花の精」と表題作「星を撒いた街」だ。「花の精」はイメージがふわっと広がるラストの描写が素晴らしい。駅の近くにあるサナトリウム、ガソリン・カアのヘッドライトに映し出される月見草の原、そして、車内で見た横綱男女ノ川の巨体…。そこに入院中の妻のはかない姿がオーバーラップする。忘れがたいラストだ。表題作「星を撒いた街」は旧知の友の家を訪れる男(作者)の話。友の内縁の妻は昔カフェで働いていた知っている女だった。坂の上にあるその貧しく小さな家は、すぐ下が崖になっていて満天に星が乱れ咲いたような夜景が素晴らしいのだ。それを見ながら交わす三人の会話がいい。そして、ラストの別れの美しいこと!

 

 帯のことを書いたが、上林の私小説は30年後はもちろんだが、明日にでも読み返したくなる。読めば読むほど味わい深く、読めば読むほどイメージが広がる。彼の他の小説も読んでみたくなった。

 

2011.8.1 お、8月になっちゃった。読書は川上弘美「天頂より少し下って」を終えて、宮部みゆき「チヨ子」に。

 

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