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【書評】上林暁「聖ヨハネ病院にて」-表題作の夫婦のありようがなんとも愛おしい

 夏葉社から出た「星を撒いた街」を読み、もう少し上林暁を読んでみたいと思った。現状で一番手に入りやすいのがこの講談社文芸文庫の作品集「聖ヨハネ病院にて/大懺悔」だ。全10作の短篇が収められている。

 

 読ませるのはやはり表題作の「聖ヨハネ病院にて」だ。いわゆる病妻物のひとつ。妻の入院の付き添いで寝泊りすることになった病院の様子、妻との様々な会話が上林らしい筆致で書かれていてとてもいい。妻は精神を病んでいて、作者は必ずしも愛情たっぷりというわけではないのだが、それでもこの夫婦のありようが愛おしく思えてくる。ラストの病院内で行なわれるミサの様子が心に残る。

 

 「姫鏡台」も好きな作品。自分がモデルになった小説の原稿を盗み見た妹が、発表しないで欲しい、と私(作者)に頼む。締め切りも間近で困惑する私。編集者も加わってのやりとりが読ませる。そして、タイトルに繋がるラスト。妹の華やいだ様子に救われる思いがした。

 

 その他では川端康成の死を発端に彼との交流を描いた「上野桜木町」がよかった。読売文学賞を受賞した「白い屋形船」、川端康成文学賞を取った「ブロンズの首」も収録されているが、個人的にはどちらもそれほどピンと来ない。どうやら僕は上林の叙情性に魅かれているようだ。全体的なセレクトから言えば「星を撒いた街」の方がズッといいのではないか。まだ上林を知らない人は「星を撒いた街」をぜひ。病妻物をもう少し読んでみたい気がするが、それには古本を探すしかないのかな。

 

2011.8.22 ここ3日ばかり東京は雨模様で気温も下がりホッと一息。「ニッポンの書評」を読んでいるが考えることがいろいろある。

 

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