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【ノンフィクション/感想】佐野眞一「津波と原発」-福島のチベットはいかにして原発銀座になったかが分かる!

 人によっては思ってる内容と違ってもの足りなく感じるかもしれない。それは、完全書き下しではなく、二部構成の一部は雑誌「G2」、二部の第一章は「週刊現代」に掲載されたものが元になっているからだろう。全体的にもう少し突っ込んで書かれていたらなぁ、東電という企業の闇にももっとグイグイと迫ったらなぁ、と僕自身も思った。しかし、この本、つまらないのかと言えばそんなことはまったくない。「津波と原発」には硬派ジャーナリストである佐野眞一らしさが横溢している。

 

 第一部の「日本人と大津波」は震災一週間後に現地を訪れたルポである。ここに登場するのは気仙沼に住む新宿ゴールデン街でおかまバーをやっていた「キン子」ママ、元共産党の文化部長、「定置網の帝王」と呼ばれるプロ中のプロの漁師などなど。彼らの話がいちいちおもしろく、しかも、心にグッと迫る。このあたりのアプローチはさすが佐野だ。こういう話は新聞では絶対に読めないだろう。

 

 第二部「原発街道を往く」ではさらに、当日福島第一原発で働いていたいわゆる「原発ジプシー」の男や浪江の大規模牧場の主なども登場する。第二章以降で語られるのは「福島のチベット」と言われた浜通りが原発銀座へと様変わりしていく、そのプロセスだ。こここそがこの本の要である。登場するのは正力松太郎、堤康次郎、木村守江などの権力の亡者たち。読んでいると「こいつらって本当にもう」とあきれると同時に、原発誘致しか術がなかった現地の荒廃と貧しさに暗然とする。その時、反対運動はほとんどなかったと言う。「あとがきにかえて」という形でそのエッセンスを伝えている、政治学者原武史とジャーナリスト森達也との対談、孫正義へのインタビューも大変興味深い。

 

○この本は2014年2月、講談社文庫で文庫化されました

2011.9.20 またまた台風がやって来る。名古屋が大変だ。福島の原発の台風対策は?気になる。読書はいがらしみきおのコミック「I(あい)」こ、これはスゴい。

 

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