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【書評】小林信彦「流される」-戦後の時代の空気が伝わって来る、自伝三部作最終章

 「流される」は「東京少年」「日本橋バビロン」に続く小林信彦の自伝的三部作の最終章だ。疎開など敗戦前後を描いた「東京少年」、実家の和菓子屋の衰亡を描いた「日本橋バビロン」、そして、今回は、母方の祖父を主人公にした物語だ。

 

 この祖父、沖電気の創業メンバーで、明治から大正の初めにかけて活躍し、その後、歯の診療機器を作る工場を経営していた人物である。ちょっと気難しげだが家族に尊敬されていた祖父・高宮信三の人生を描きながら、小林は敗戦から朝鮮戦争にかけての下町や山の手の暮らしを浮き彫りにしていく。彼自身が中学から高校にかけての出来事だ。家は下町だが、祖父の家、そして高校が山の手にあった彼はどちらの生活もよく知っている。この「下町」と「山の手」は小林信彦にとって大きなテーマで、今回も幾度となくその話が登場するのだがいつものことながらおもしろい。

 

 祖父との横浜行きの話、神保町での万引き事件、両国川開きの復活、そして祖父の死と様々なエピソードが紹介される。あくまで高宮家、小林家で起こる出来事なのだが、それを通して当時の様々な街の位置づけがわかり、時代の空気がハッキリと感じられる。それは教科書や歴史書を読んでもわからないものだろう。チャーリーや滝本という怪しい脇役たちの存在がいい。小林は時折フィクションも織り交ぜながら、祖父と彼が生きた時代を描いてゆく。さすがの一冊。

 

○この本は2015年8月、文春文庫で文庫化されました

 2011.10.15 「上海バンスキング」の劇作家斎藤憐さんが亡くなる。これは本当に見事な芝居でした。脚本だけ読んでも素晴らしい。機会があればぜひ!読書は「神様2011」を終え「不愉快な本の続編」へ。

 

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