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【書評】北村薫「鷺と雪」-この大団円のためにすべてがある

 北村薫が直木賞を取ったこの「鷺と雪」はいわゆる「ベッキーさんシリーズ」の第3作で最終章だ。僕は1、2作目を文庫で読んでいたのだが、その受賞が不思議だった。いや、このシリーズはすごくおもしろい。しかし、3作目で何で?という気がする。まぁ、北村さんは直木賞ぐらいとっくの昔にもらっていい作家なのだが。さて、問題の「鷺と雪」、文庫になったので早速読んだ。なぁ~~るほど!納得。これは直木賞だわ。「鷺と雪」の大団円から1、2作目を振り返ってみれば、このシリーズが昭和初期の上流家庭を舞台にし、主人公が良家のお嬢様という設定の訳がよくわかる。このラストのためにすべてはあったのだ。ううむ、北村薫、やっぱりこの人はスゴい!!!

 

 こういう人びとの話、伯爵だとか男爵だとかが出て来る話に拒絶反応を示す人もいるだろう。僕もそれがなかったわけではない。とはいえ、物語はおもしろく、男まさりで正体不明の女性運転手ベッキーさんの魅力と彼女の謎解きの見事さで決してあきることはなかった。2作目では彼女の正体も明らかになる。

 

 そして、この3作目。3つの話が収められているのだが、1話2話ともベッキーさんはそれほど活躍はしない。ただ、不穏な空気が強く漂い始める。そして、ラストの3話目。たわいのない写真のいたずらの話、と思いきや、最後の最後で見事な切り返しを見せる。ベッキーさんと軍人である勝久との魂と魂の会話、ベッキーから令嬢英子へのメッセージ、そして、奇跡の電話(これについては解説をぜひ読んでください)、最後の一行にたどり着くまでの展開が本当に本当に素晴らしい。これはぜひ、1作目の「街の灯」からじっくりと読んでもらいたい。この圧倒的なラストに向けて。







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 2011.10.23 競馬、オルフェーヴルの菊花賞は本当に強かった。史上7頭目の三冠馬。読書は後回しにした絲山秋子「不愉快な本の続編」へ。 

 

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