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【書評】窪美澄「晴天の迷いクジラ」-リアリティが支える言葉の力

晴天の迷いクジラ 晴天の迷いクジラ
窪 美澄

新潮社 2012-02-22
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 「ふがいない僕は空を見た」の窪美澄待望の新作だ。この物語には3人の男女が登場する。1人はデザイン会社でハードワークを重ねるうちにいつしか軽い鬱になる24歳のデザイナー由人。その会社の女社長48歳の野乃花は、どうにもうまくいかなくなった会社を建て直すことに疲れ果てている。もう1人は16歳の高校生正子。彼女はノイローゼ気味の母親に反抗さえ出来ない日々を送っている。窪美澄はそんな彼らの「今」を描くと共に、つらく厳しい過去をも描いていく。その描写はこれでもか、というぐらいこまかく息苦しいほどだ。そのリアルさ!!!彼らの経験したこと、彼らの現在、それは現代ではけっして珍しいことではない。

 

 しかし、彼らは典型とか類型として描かれてはいない。まさに「その人」自身だ。このリアルさが物語を支えている。だから、1章の由人の物語も2章の野乃花の物語もとてもつらい。3章の正子の話もつらいのだが、その半ばで彼女が初めて友と呼べる2人と出会うところが本当に本当にうれしい。そして、迷いクジラと会うために3人が出かけた南の地。彼らが出会う土地の人、82歳のばあちゃんが正子に語りかけるその言葉のひとつひとつ、ばあちゃんの孫である雅晴が由人に語る強く短い言葉が心にズシリと届くのだ。

 

 「ふがいない~」の書評で僕は「作者の窪美澄は彼らがいる場所のまっただ中からこの物語を発信しているように思える」と書いた。それはリアルさに対する賛辞だったが、この物語で気がついたのは、前半で作者が執拗に語り続けた彼らの過去、そのリアリティがあってこそ最終章でのメッセージが百万倍ぐらいになって届く、ということだ。リアルを生み出すのは、体験か取材か想像力か表現力か。いずれにしても窪美澄はスゴい。「ふがいない僕は空を見た」そしてこの「晴天の迷いクジラ」を通して、窪美澄は僕にとってかけがえのない作家になった。そして、おそらく、あなたにとっても。

 

○この本は2014年7月、小学館文庫で文庫化されました

 

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