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【絵本/感想】ショーン・タン「遠い町から来た話」-心の奥底にずっととどまる、そんな物語

 ショーン・タンの「アライバル」はグラフィック・ノヴェルとして秀逸だった。その彼の日本での最新作がこの「遠い町から来た話」。まったく文字がない「アライバル」と違ってこちらは絵があり文がある。全部で15のストーリーだ。見返しに入っている彼の落書きみたいな絵が楽しい。そして、タイトルが入った最初の見開きページ。そこに描かれた不思議な絵。ボートに乗った赤い服を来た女性が住宅地の道路の上に浮かんでいる。この絵を見ているうちに僕らはいつのまにかショーン・タンワールドへと引き込まれていく。

 

 話は短いものから長いものまでいろいろ。好きな話はたとえば、「遠くに降る雨」。これは、誰かが書いた、読まれなかった詩、の話だ。往生際の悪い詩が逃亡を図り、そのうちいろいろな詩と一緒になり巨大な「詩の球」になってしまう。いいんです、これ。終わり方も好き。「底を流れるもの」はいつもどなり声が聞こえる家の芝生の上に、ある日突然、ジュゴンが現れる。大騒動のあと、ジュゴンは運ばれていく。その夜、家から小さな男の子が出てきて…これ、余韻の残るいい話だ。

 

 「葬送」は、飼っていた犬を殴り殺した男の家に百頭近くの犬が集まって来る話。1ページの短いストーリーだがラストの数行には涙があふれる。とにもかくにも、この日常と非日常、異形のものとふつうの人々、その2つがない交ぜになった物語はショーン・タンの絵の魅力、岸本佐知子の翻訳の見事さともあいまって、僕らの心の奥底にコトリと音を立ててたどり着き、そこにずっとずっととどまっているような気がする。

 

 残念なことがひとつ。切り貼りした紙に文字を連ねストーリーを進めていく物語がいくつかある。文字が英語ならいいのだろうけど、日本語だとどうにもおさまりが悪い。しょうがないことではあるのだけど。

 

○ショーン・タンの他の本の感想などはこちら

  

2012.3.17 このところ週末はずっと天気が悪いですね。ひと雨ごとに春は近づいているのでしょうか。読書、やや進まず。依然「11」。

 

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