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【書評】原田マハ「楽園のカンヴァス」-知的好奇心をくすぐる見事なアート小説!

 直木賞候補にもなった。アートを題材にしたこの作品はニューヨーク近代美術館勤務の経験があり、フリーのキュレーターでもあった作者が初めて自らの得意分野に挑戦した野心作だ。アンリ・ルソーの知られざる名画を題材にした小説だが、最近のこの手の物語と同様にグイグイと読ませるし、構成もアイデアも素晴らしい。もの足りない部分がないこともないのだけど、これだけ楽しませてくれたら上出来である。

 

 発端は2002年の倉敷、大原美術館で監視員を務める早川織絵のエピソード。そして、物語は一気に時をさかのぼり1983年のスイス・バーゼルへ。当時、新進気鋭のルソー研究者だった彼女は、伝説のコレクター、コンラート・バイラーに密かに招かれスイスを訪れた。目的は彼が秘蔵する「夢を見た」と名付けられたアンリ・ルソーの絵の真贋をもう一人の男と争い見極めるためだ。しかも、絵ではなくある「物語」を通して。この設定がなかなかいい。

 

 「夢を見た」はルソーのあの名作「夢」に極似した作品だった。なぜこんな絵が存在するのか?そして、美術界に暗躍する人だけが知るこの絵をめぐるある噂…。それをここで明かすわけにはいかないが、この噂が真贋の話を複雑にし、だからこそこの物語はおもしろいのだ。織絵たちが読んだ「物語」の中で語られる晩年のルソーの暮らしぶり、「夢」のモデルになった女の「永遠に生きる」という意味、バイラーという男の正体などなど、単純ではない作りがなんともうれしく、知的好奇心を大いにくすぐられる。読み応えのあるアート小説の傑作である。

 

◯この小説は2014年6月、新潮文庫で文庫化されました。

 2012.10.19 水村美苗「母の遺産 新聞小説」もそろそろ終わり。こういう展開になるとは…。やっぱり小説っておもしろいよなぁ。

 

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