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【書評】窪美澄「雨のなまえ」-希望はない、しかし、主人公たちへの共感がある

 窪美澄はリアルの作家だ。ていねいにリアルを積み重ねていくことで主人公たちが生きているその世界をくっきりと浮かび上がらせる。だからこそ、彼や彼女の言動が読んでる者の心に突き刺さるのだ。5つの物語を収めたこの短篇集もまたリアルで、ちょっと恐ろしい気さえする。

 

 長編「アニバーサリー」でもそうだったが、作者はもうラストで希望を提示したりはしない。結婚生活に満たされず浮気に走る男、パート先の若いアルバイトに心惹かれる主婦、自分とあまりに不釣り合いな美女と結婚した営業マン、自殺した幼なじみとクラスの少女の姿が交錯する中学教師、そして母親たちとの付き合いのただ中にいるシングルマザー。誰もが、自らを取り囲む状況の中でいっぱいいっぱいになり、一歩も動くことができなくなっている。そんな彼らに降り注ぐ雨!

 

 確かにここにはひとカケラの希望もない。しかし、登場人物への共感があるならば、そこに自らを重ね合わせることができるならば、それこそが希望だろう。それこそが救いになるだろう。窪美澄は長編の人だと思っていた。まさか短篇集で直木賞を受賞するとは。いや、まだだけど、きっとそうなる。

 

○窪美澄「雨のなまえ」は2016年8月、光文社文庫で文庫化されました。

 ◯窪美澄のその他の本のレビューはこちら

        

     

 2013.12.1  あぁ、師走突入。あわただしくしてるのは自分か?読書は松家仁之「沈むフランシス」を読み終え、関容子「勘三郎伝説」。

 

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