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【書評】角田光代「私のなかの彼女」-出会いの恐ろしさ、言葉の恐ろしさを描いてこれは本当にスゴい小説

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 ある出会いが一人の女性の人生を変えた。主人公の和歌は18歳の時に大学で出会った仙太郎と交際を続けている。彼は学生の頃からアーティストとして雑誌に連載を持つほどの男。センスもよく知識も豊富な仙太郎に対して、和歌は就職にも人生にも何のビジョンも持っていない。なんとか小さな出版社に入社した和歌だが、ある日、実家の蔵で祖母が書いたらしい一冊の本を見つける。これがきっかけとなって、彼女は小説を書き始めることになる。モノを作るという同じ立場になった時、和歌の前には常に仙太郎の存在があった。

 

 賞にノミネートされ、ついにはある文学賞を受賞する和歌。そんな彼女に仙太郎はいい放つのだ。「小説ってかんたんに書けるものなんだな」「ぱっと書いてぱっと賞もらってぱっと本出してる」、その後も彼が何気なく放つ言葉が和歌の心をえぐり、大きな抑圧を生み出していく。とはいえ、仙太郎がひどく常識を欠いたイヤなヤツというわけではない。日々の暮らしの中で放たれる言葉の恐ろしさ。読む人によっては「あぁ、こういうことオレもよく言ってる」と思うだろう。書くことだけに夢中になり、暮らしがすさんでいるにもかかわらず平然としている和歌に対しては反感を持つ人も多いだろう。

 

 それでも、2人は出会ってしまった。18歳から13年間も一緒に暮らした。「なんて歪んでいびつな人生だろうか」と和歌は物語の終盤でひとりごちる。そして、自らの孤独を強く強く思うのだ。角田光代はいろいろなタイプの小説を書くのでそれだけでもスゴいと思うのだが、これもまたなんだか怖くてスゴい小説である。

 

◯この本は2016年4月、新潮文庫で文庫化されました。

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◯角田光代のその他の本のレビューはこちら

2014.1.27 暖かくなったぁ、と喜んでたら今日はやたらと寒い。宮部みゆきの「ペテロの葬列」を読み始めるが、ややややや、分厚いっ!!

 

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