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【書評】朝井リョウ「スペードの3」-生まれ変わろうとする3人の女性の姿を鮮やかに描いた傑作

 若き直木賞作家朝井リョウが社会人を主人公に描いた初めての小説だ。でも、ま、そんなことはある意味どうでもいい。それより、前にもちょっと触れたが、彼の作品を読むとまるで女性作家が書いた物語のような錯覚を覚えてしまう。「スペードの3」は3つの物語からなる連作小説だが、各々の主人公である3人の女性の心理を作者は本当にリアルに、そしてきめこまやかに描いている。こういう物語を男性が書けることが驚きである。

 

 最初の一編から物語の世界にグイグイと引き込まれる。宝塚をモデルにしたと思われる劇団の卒業生である女優の香北つかさ、彼女にはファミリアという狂信的とも言えるファン団体がある。「家」はファミリアの幹部組織で主人公の江崎美知代はその中心人物だ。つかさを「つかさ様」と呼ぶ会員たち。事務的な仕事に明け暮れる美知代にとってはファミリアこそが生きがいだった。小学生時代はクラスの中心にいていつも学級委員だった美千代。そんな昔の彼女を知った人物が登場することで物語は大きく動く。ここでのミステリー的な作りが大きな効果を上げている。

 

 さらに美知代の同級生だったむつ美という女性、そして、香北つかさの物語が続く。3人の女性の時間を交錯させながら、それぞれが生まれ変わろうとする姿を描き出したのがこの「スペードの3」という小説だ。小学生、中学生、社会人、そして、芸能界と多彩な時間と空間が描かれているこの話には、特に女性は共感するところが多いだろう。ひとつ注文があるとするならば、短くてもいいから、最終章のようなものが僕自身はあればいいな、と思った。

 

◯この本は2017年4月、講談社文庫で文庫化されました。

 ◯朝井リョウのその他の本のレビューはこちら

 

 

 2014.5.14 コンピュータトラブルで大分お休みしちゃいました。すみません。データも無事戻ったので正常運転に戻ります。読書は村上春樹「女のいない男たち」、もうすぐ終了予定。

 

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