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【書評】原田マハ「太陽の棘」-戦後すぐの沖縄、画家たちと従軍医の運命の出会いがあった

 キュレーターであった原田マハの「絵」をテーマにした物語はいつも興味深い。「太陽の棘」は戦後の沖縄にあった美術村の作家たちとその絵に魅せられたアメリカ人従軍医の話だ。

 

 プロローグは現代、84歳になった主人公エドの日常が描かれ、そこから静かに60年前の回想が始まる。このプロローグの静謐さがとてもいい。そして、物語は1948年の沖縄へ。大学院を出たばかりで何もわからないまま精神科の軍医として在沖アメリカ軍に派遣されたエド。暴力沙汰を起こす兵士の多いタフな仕事の合間、仲間とドライブに出た彼はそこで運命の出会いをすることになる。

 

 「ニシムイ・アート・ヴィレッジ」、そこは沖縄の画家たちが集まった美術村。彼らは肖像画やポストカードなど「売り絵」を描きながらなんとか生計を立て、自分たちの描きたい絵を描き続けている。特にリーダー格のタイラはエドの出身地サンフランシスコの美術学校に通っていた男で2人は意気投合する。そこから始まるタイラたち画家との密度の濃い交流。台風による村の崩壊、エドの失言からの絶交、そして、ある事件が起こり…。「太陽の棘」は、絵を描くことに情熱を傾ける沖縄の画家たちの真摯さ、粘り強さ、その人間性を活写して素晴らしい。エドとの交流には絵を愛するもの同士の信頼と愛があり、読むものの心を捉えて離さない。

 

 これは史実を基に書かれた物語だ。タイラのモデルは沖縄画壇を代表する画家になる玉那覇正吉。彼が描いたエド(モデルはスタンレー・スタインバーグ博士)の肖像画と自画像がこの本の表紙と裏表紙を飾っている。彼らの絵をもっともっと見てみたい。

 

◯この本は2016年11月、文春文庫で文庫化されました。

◯原田マハのその他の本のレビューはこちら

 

     

2014.10.8 ノーベル賞、中村教授の「闘い」にはずっと注目していたのでうれしい。読書は津村記久子「エヴリシング・フロウズ」。

 

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