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【書評】絲山秋子「離陸」-時間と空間、生と死…浮遊感を感じる不思議な物語

 絲山秋子は好きでほとんどの小説を読んでいる。ただ、この「離陸」は理解するのが難しい。だからといってつまらないわけではなく、なんだか「不思議な感じ」がしてとてもおもしろいのだけど。ひとつだけハッキリしているのは絲山秋子は物語というものに挑戦状を突きつけている。そんな感じがする。

 

 八木沢ダムで管理の仕事をする国交省の若い役人佐藤のもとに、イルベールという謎の黒人が訪れ「女優」を探して欲しい、と頼む。「女優」とは佐藤の元の彼女乃緒(のお)のことで、彼の前から突然姿を消していた。このあと主人公である佐藤は、パリ、熊本八代、福岡、佐賀の唐津と居所を変えていく。こうした空間移動の中に時空間の話が紛れ込む。佐藤はパリで、1930年代に乃緒がマダム・アレゴリという名でスパイとして暗躍していたという文書を手に入れるのだ。

 

 この物語では佐藤の大切な人が次々と死んでいく。彼は言う、人はみな最後には飛行機みたいにこの世から離陸していく。生きてる自分たちはまだ空港にいて行列に並んでいるのだと。時間と空間、生と死…そこに生きている自分。そんなことを考えているとなんとも「不思議な感じ」になってしまう。それは浮遊感と呼んでいいものなのかもしれない。

 

 ミステリアスで不思議な物語であるけれど、実はリアルで心に残るエピソードも多い。パリで結ばれた女性リュシーとのこと、乃緒の息子ブツゾウとの交流、佐藤の妹で目が見えない茜のこと。そして、佐藤の身近に常にある「水」のイメージ!これは、繰り返し読むことで作者の意図がさらに見えてくるに違いない深くて豊かな物語。

 

◯この本は2017年4月、文春文庫で文庫化されました。

 ◯絲山秋子、その他の小説の書評はこちらから

 

2015.5.16 5月に半袖のTシャツでうろうろしてる私。なんだかもう四季がよくわかんないな。読書は、北村薫「太宰治の辞書」。

 

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