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【書評】盛田隆二「父よ、ロング・グッドバイ─男の介護日誌」-著者だからこそ書けた介護生活の「リアル」

 「男の介護日誌」という副題の通り、著書の父が91歳で亡くなるまでの約10年間の介護生活を描いたノンフィクションだ。「リアリズムの名手」と呼ばれる小説家がノンフィクション、しかも自らの体験を書くのだから、この「リアル」は本当に心に迫る。盛田隆二だから書けた一冊だと思う。

 

 実家に住む父と母、そして妹。少し離れたところに住む盛田夫妻。冒頭で語られる母の病気と死。妹の病。父親は妻を亡くしたことで生きる意欲を失い認知症がひどくなってしまう。それがすべての始まり。

 

 介護というのはただのルーティンではない。介護するべき人がいる、ということで生活の全てが変わってしまう。そして、何事かが起こればその大きな波にのまれて、まる1日、時には数日の暮らしを失い、精神的なダメージを受け、「普通の暮らし」ができなくなる。父親の言動に振り回される盛田氏の日々を読んでいると、このことを強く強く感じる。

 

 タイミングの悪いことに、この時彼は小説家一本で生きていこうと決意したばかりだった。大切な依頼原稿を断らなければならなくなった辛さと焦り。様々なことが重なって、彼自身も心の均衡を失っていく。盛田氏は全編を通じて「介護っていったい何なんだ?」と自らに問いかけているように思う。同時に読者にもその問いは向けられる。

 

 介護生活というものは、一家族一家族違う。だからこの本が今家族を介護してるすべての人の参考になるわけではない。それでもこの実話を通じて感じる強い共感は、大きな力になるのではないか。エピローグ。父が語る母との出会いの話。そして、ラストを飾る一葉の写真。自然と涙がこぼれた。

 

◯著者はこの介護経験を背景にした「二人静」という恋愛小説を書いています。これもまたおすすめです。

◯「二人静」を含む盛田隆二の本のレビューはこちら

 

 2016.6.24 さてさて参院選が始まった。ヘンな人がヘンはことをしないように最低限のことはしなければ。読書は窪美澄「アカガミ」。

 

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