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【書評】ひこ・田中「ハルとカナ」-たくさんの「初めての気持ち」を描いて心揺さぶられる物語

 いやいやいや、これは傑作だ。大好きなヨシタケシンスケが表紙と挿絵を描いているので読んだのだが、こんな作品を書くひこ・田中という人を知らなかった不明を恥じている。相米慎二監督が映画化した「お引越し」の原作は彼の同名小説だ。同じく映画化された「ごめん」、他にも「なりたて中学生」シリーズ、「レッツ」シリーズなどなど多くの著書がある。「え〜〜っ!ひこ・田中を知らないの?」って笑われそう。ううむ。

 

 「ハルとカナ」は児童文学ということになるのだろうか。まぁ、ジャンルなんてどうでもいい。この物語の主人公、ハルとカナは小学2年生。2年2組の同級生だ。男の子のハルはいろいろなことを考える。「大人はほんとうに、ややこしくて、がまん強い生き物だな」とか。女の子のカナもいろいろなことを考える。停留所でバスに乗ってくるカエルの数を数える授業で「カエルがバスにのってくるなんてすごいなぁ」とか。家でも学校でも、家族や友だちのことをいろいろ考えて、いろいろ話をして。

 

 

 そのひとつひとつに読む者はハッとさせられる。それは、その昔(僕の場合ね)、自分が経験し自分が感じたことだったりするから。幼稚園の仲間となんとなく集まり、いつの間にか別々になったり。男の子は男の子、女の子は女の子で固まりだしたり。女の子を名字で呼ぶようになったり…。

 

 この物語で描かれているのはたくさんの「初めての気持ち」だ。子供たちは他の人間と触れ合うことでいろんな「はじめて」を経験しながら少しずつ少しずつ成長していく。ひこ・田中は繊細でウィットに富んだ会話文を中心にハルとカナの心の成長を描いていく。そして、この物語の最後の「初めて」は恋、のような、もの。そこにたどり着くまでの2人の心の揺れを描く描写が素晴らしい。

 

 これは確実に今年のマイベストに入るだろう。それほどの傑作。もちろんヨシタケシンスケの絵もいい。ひこ・田中の他の本も読まなくては。

 

2016.10.6  まだまだ続く豊洲騒動。まぁ、移転は無理ですね。読書は「〆切本」をゆっくりと。

 

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