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【書評】山下澄人「しんせかい」-ここには確かに「人間」がいる

 芥川賞受賞作。それだけなら手に取らなかったかもしれないのだが、作者は倉本聰さんの富良野塾の二期生でその頃のことを描いたという、これは読みたい。で、読んで、すごく驚いた。おもしろい!おもしろ過ぎる。エピソード云々ではなく、小説として抜群におもしろい。あらためて、芥川賞パチパチパチ!  

 

 物語の中で塾のことは【谷】、倉本さんのことは【先生】となぜか【】付きで書かれている。主人公の名はスミトだ。さて、【谷】に着いて最初の授業、一期生との顔合わせ。先輩である彼らは二期生の言動にゲラゲラゲラゲラ笑う。おかしくないのに…困惑するスミトたち。【先生】は言う。「新鮮なんだよ一期のみんなは君たちが」「新鮮で仕方がない。ずっとこの人数でここにいたからね」、(中略)「それが、笑う、というかたちでああして出ちゃった」、一期生は本当に何もない所から塾を作りあげてきた。1年経ってやっと後輩たちがやって来たのだ。うううむ、何だかスゴい話だな。この話で心を鷲掴みにされる。

   

 【谷】での暮らしの描写を支えているのが作者の独特の文体だ。計算されたものではない(たぶん)。巧く書こうなどということよりもこのことを書きたいんだ、書いておきたいんだという強い思いが感じられる。ラフだけど下手ではないとてもいい文章。

 

 物語は1年の暮らしが終わり、一期生が去り三期生がやって来る直前で終わる。【先生】が「北の国から」の脚本家だとも知らずにここにやって来たちょっとすっとぼけた感じのする主人公の1年。ここには確かな「人」の足跡があり、「人」のぬくもりがある。そして、確かに「人間」がいる。

 

◯「しんせかい」は2019年10月、新潮文庫で文庫化されました。

 

2017.3.15 WBC、ここまで来たらぜひぜひ準決勝に進みたい。不思議な強さのイスラエル、勝てるか。読書は村上春樹「騎士団長殺し 第一部」

 

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