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【書評】又吉直樹「劇場」-ゴロゴロとした魂の有り様が読む者の心に突き刺さる

 主人公の永田は高校を卒業後に劇作家をめざして上京、下北沢で小さな劇団を始める。冒頭のシーンが印象的だ。真夏の午後、朦朧としたままあてもなく歩き続ける永田は、とある画廊の前で中の絵をのぞき込んでいた。同じく中を見ている女性に気づいた彼は、何か感じるものがあったのか、警戒して逃げ出した彼女を追いかけ、分からないことを口走り続け、最終的に彼女と知り合いになってしまう。めちゃくちゃだ。この女性がヒロインになる服飾専門学校に通う沙希。この冒頭部分ですでに永田という男の自意識の強さと危うさ、そのために人との関係がうまく作れないことが分かる。

 

 これは演劇に対しても同じで、思っていることをうまく表現できなかったり意識がねじ曲がってしまったり、他人から見ると理解不能の方向へと進んでいってしまう。最初は救いでもあった沙希との関係もしだいしだいにおかしくなっていく。又吉直樹がすごいのは、この哀しい男の心情をあらゆる言葉を使って、丸ごと表現しようとしているところだ。ゴロゴロとした魂の有り様が読む者の心に突き刺さる。

 

 この小説、確かに恋愛小説なのだけれど、永田のこの自意識、この魂こそが本当の主人公のような気がする。「劇場」という小説を読むと、永田という男に悪酔いしてしまう。そして、この男のことが忘れらなくなってしまうのだ。恋愛小説のくせにキスシーンもなければセックスシーンもないのは、この「いかれた男」の魂にはそれがあまりに不釣り合いだからだろうか。

 

◯又吉直樹「火花」の書評はこちら。


 2017.6.7  関東も梅雨入りしたんですね。ひいきチームが連敗街道まっしぐら。やれやれ。読書はカーソン・マッカラーズ「結婚式のメンバー」。

 

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