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【書評】川上弘美「森へ行きましょう」-人間が愛おしく、人生がさらに興味深くなる。今年のマイベストに入る傑作!

 これはもう圧倒的なおもしろさ!今年のマイベスト上位に必ず入る傑作だ。1966年に生まれた留津とルツの物語が交互に語られる。2人は両親の名も同じ、後から絡んで来る人々の名前も同じ。まぁ、こういうのをパラレルワールドっていうのかもしれないけれど、そんなことはどうでもいい。川上弘美はこの2人の女性の人生を2017年50歳になるまで、深く軽快に描いていく。


 もちろんこの2人、いろいろなことが違う。元々の性格もそうだし、環境も違う。留津は早くに結婚するが、ルツはなかなか結婚しない。進学、就職、恋愛、交友関係、いろいろな場面でそれぞれが迷い、考え、決断し、自らの人生を選び取っていく。いやいや、こういう風にまとめちゃうのは一番つまらない。選び取る、なんてこと、本当にやってるのだろうか?「選ぶということは、なんて難しいことだろう」とルツはうそぶく。まじめすぎる留津は夫や義母に振り回され、流されてばかりだ。しかし、この物語を読んでいる僕らにとっては、そこで彼女たちがつぶやく一言や友人たちの言葉が示唆に富んでいて、救いになったりもする。

 

 物語は後半、彼女たちが年齢を重ねるほどにややこしくなっていくのだけど、どこかで人生の「上澄み」みたいなものがポッカリと浮かんできて、軽やかさが生まれたりもする。う〜ん、おもしろいなぁ。そのうち、2人の他に、琉都や流津や瑠通やるつまで登場して…。

 

  「森へ行きましょう」を読んだら、人生が生きやすくなるのか生き難くなるのかはよく分からないけれど、人間というものが愛おしくなってくるのは確かだ。「生きる」ことがさらにさらに興味深くなってくる。それは、いいことでしょう?人生という森は深く謎めいている。そこで出会う人々の中で、最後に寄り添っているのは誰か?この物語はその問いかけを残して終わる。年末にこの物語を読めて本当によかったなぁ。

 

◯この本は2020年12月、文春文庫で文庫化されました

 

○川上弘美の他の本の感想などはこちら


 2017.12.15 東京、寒くなってきた。理系のリライトの仕事があるのだけど内容が全然分からない。なんだかなぁ、ううむ。読書はフランシス・ハーディング「嘘の木」。

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