大ヒットした「岳物語」に始まり、「続 岳物語」「大きな約束」「続 大きな約束」「三匹のかいじゅう」と息子世代から孫世代へと続く椎名誠の家族の物語は楽しくてずっと読んできた。今回は彼自身の子供の頃の話だ。シーナの幼い頃のことは断片的に読んだことはあるが、こうして1冊にまとめられたのは初めてではないだろうか。これを書くことでシリーズは円環のようにつながり、三世代の物語になった。
小学生の頃からシーナは「具体的にそれがどういうことなのかよく分からなかった」が「家庭内異変」を感じていた。子供は全部で5人いたが、他にも見知らぬ子供が時々家に現れた。後に分かることなのだがシーナの父には先妻の子供が5人いた。シーナの母との間には4人。異母兄弟のうち1人だけが長男として一緒に住んでいたという。いやいや何だか大変だ。
一家は、三軒茶屋の大きな家に住んでいたのだが、これもまた「何らかの事情」で千葉の山奥、さらに幕張へと引っ越しを繰り返す。この物語では、家族の問題をはじめとするシーナ家のヒミツが少しだけ全体に暗い影を落としてはいるのだが、やはり読みどころはシーナ少年の元気でやんちゃな毎日だ。
工事現場のトロッコに乗って大冒険をしたり、怪しいおっさんと遭遇しやばい仕事に首を突っ込んだり、学芸会ではなぜか主役の1人に選ばれる。そんな話を書いている時は、息子の岳や孫たちの様子を書いている時と同様にシーナの筆致も軽い。
父親の死や姉の結婚も描かれるのだが、いつまでも続くと思われた大家族の日々は、意外とあっけなく終わってしまう。家族で暮らせる日は短い。振り返ると幻のような「家族の日々」を描いて、この物語は強く心に残った。続編は夏から「すばる」に連載される予定。こちらも楽しみ!
◯「家族のあしあと」は2020年5月、集英社文庫で文庫化されました。
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