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【書評】遠田潤子「雪の鉄樹」-融通の効かない愚かすぎる男を描いて見事な物語!

 遠田潤子は2017年度の本の雑誌ベスト10で第1位に輝いた「オブリヴィオン」を読んだが、これはさらに前、2014年に単行本化されすでに文庫になっている物語。「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベストテン」の1位にもなっている。

 

 これもまた「オブリヴィオン」同様、その「核心」となる部分が分からない。主人公の雅雪はたらしの家に生まれた三代目で庭師をやっている。祖父も父も日々女を連れ込むようなたらし。しかし、彼自体はまじめすぎるほどまじめで融通が効かない。そして、なぜか両親のいない遼平という子とその祖母の世話を焼いている。祖母には屈辱的な扱いを受け続けているのだが雅雪は何をされても抵抗しない。14年前に「何か」が起こったのだ。彼はさらに「誰か」がやってくるのを待ち続けているようだ。「何か」とは何なのか、「誰か」とは誰なのか、物語の中盤になってからでないとすべては分からない。

 

  物語は2013年7月2日という第1章に始まって7月7日の11章で終わる。6日間の出来事だが、その中で様々な回想や青春の物語、そして「事件」の真相が語られていく。郁也と舞子という双子の兄妹とのこと、雅雪の寂し過ぎる境遇、幼い頃から続いていた雅雪と遼平の交流。構成のうまさもあって、その一つ一つが心にしっかりと残る。

 

 多分僕はこの主人公が好きではない。雅雪と親しい原田という男が言うように彼の行動には本当に「苛々させられる」し、愚かすぎる男だ。さらに言えば遠田潤子の物語もどこか古めかしく、人間関係がドロドロしていて何だかなぁという感じさえする。それでもこの物語の熱量というかとんでもなさに最後はひれ伏してしまう。何とも融通の効かない大バカな男を描いてこれは見事な物語だ。

 

◯遠田潤子「オブリヴィオン」の書評はこちら


2018.9.14 なんだかバタバタと忙しい。天気も悪いなぁ。読書は村田沙耶香「地球星人」がもう少しで終了。いやいやとんでもない。

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