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【書評】村田沙耶香「地球星人」-ここまでいっちゃう村田沙耶香という小説家が恐ろしい!

 これ、とんでもないなぁ。とんでもないというのは、すごい小説だということももちろんあるのだけど、なんだかとてつもなくてよく分からないという意味合いも含んでいる。冒頭から驚かされる。第1章は長野の田舎の集落が舞台。主人公奈月の祖父母の家に親戚たちが集まってくる。お盆の恒例の集まりだ。奈月といとこの由字は宇宙人だとかヘンなことを口走っているが、時代的には「現代」の話のように思われる。

 

 ところが次章の冒頭は「私は、人間を作る工場の中で暮らしている。私が住む街にはぎっしりと人間の巣が並んでいる」というフレーズがあり、かなり混乱する。少し未来の話なのだろうか。読み進めていけばこれがどういうことなのかは分かってくるのだが、この辺りの構成が村田沙耶香は巧みだ。しかも、魔法少女だとかポハピピンポボピア星だとか彼女の表現は尋常ではない。この人だけの世界が確実にある。読む側はグイグイと村田沙耶香ワールドに引き込まれていくのだ。

 

  幼いながら「結婚」してしまった奈月と由宇。2人の「なにがあってもいきのびること」という誓いが強く心を捉えて離さない。この言葉は「地球星人」という物語の「核」になるものでもある。一方で小学生の奈月が塾の先生から受ける性的な被害もまた、重要なものになっている。

 

 3章は23年後。大人になった奈月は「すり抜け・ドットコム」というサイトを利用して別の男と結婚している。性行為のない婚姻関係、暮らしや性の多様性、女性として生きていくこと…今の時代、これからの時代が垣間みえて来てこの中盤はすこぶるおもしろい。同時に多くの苦しみがここにはある。いずれにしても、ここで描かれたこと、書かれた言葉で救われる人は多いのではないか、と思う。

 

 終盤、様々なことの後、奈月と夫、そして由宇、3人の単位が「人」ではない別のものに変わる。それから後はクレージー沙耶香の真骨頂。この物語でどこまでいきたいのか、そこまでいっちゃっていいのか。空想や現実逃避によって何とかしのいで来た奈月は救われ「いきのびる」ことができるのか。ここまでいっちゃう村田沙耶香という小説家が恐ろしい。

 

◯この本は2021年3月、新潮文庫で文庫化されました。

 

◯村田沙耶香、他の本の書評などはこちらで


2018.10.11 いろいろと停滞。宣伝会議賞は何とか頑張っているけれど。読書は「古賀史健がまとめた糸井重里のこと。」があまり進まない。

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