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【書評】塩田武士「歪んだ波紋」-それは「誤報」か「虚報」か?マスメディア、ネットメディアの未来は?

 「罪の声」であのグリコ・森永事件の闇に切り込んだ塩田武士。この連作短編集でテーマにしたのは「誤報」だ。5つの物語の舞台になるのは地方新聞や全国紙、テレビ、さらにはウェブニュース。主人公はその記者やOBたちだ。登場人物たちは少しずつつながりがあり、最後の物語ですべてが一つになる。

 

 テーマを「誤報」と書いたけれど一言で言えるほど単純な話ではない。誤報は故意に書かれたものではないが、ここでは「虚報」や「虚偽放送」なども登場する。一昔前までは揺るぎない信頼のメディアだった新聞。ネットの時代では速報性で勝てるわけはなく、記事の深度こそが問われているはずだが、それを脅かす者たちがいる。誰が?いったいなんのために?

 

  それぞれの物語は、新聞やテレビなど既存のマスメディアが取り上げた事件を発端にその後を描いていく。偽記事のために追い詰められていくもの、過去の仕事にしっぺ返しを食らうもの、思わぬ真実に自ら口を封じてしまうもの…。ネット関連の「メイク・ニュース」という偽記事の指南書のようなサイトや「ファクト・ジャーナル」という裏をしっかり取り理想のニュース媒体を目指すサイトなどがそこに絡んでくる。

 

 バブル期のフィクサーをモデルにした安大成という男と彼を追う男たちの存在が物語をより複雑でおもしろいものにしている。闇の中を手探りで進むような4話、5話のおもしろさ、恐ろしさ。ポスト・トゥルース=おもしろければ何でもいい、という考えがはびこり始めているこの社会。報道とは何か?真実とは何か?マスコミとは何か?ネットニュースとは何か?そして、これから歩むべき道は?この連作短編集は読む者に様々なことを突き付け、問いかけているような気がする。

 

◯塩田武士は「罪の声」もオススメです

 

 2018.12.8 夏から秋にかけていろいろあったことの疲れがドドっと出てきている感じ。読書は「谷口ジロー 描くよろこび」

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