また、本の話をしてる

おすすめ本の紹介や書評、新刊案内など、本関連の最新ニュースを中心にお届けします。

【書評】川上未映子「夏物語」-これは自らの「身体」と共に生きる女性たちの痛みと悲しみから生まれた物語だ

 

 物語は2部に分かれている。1部は2008年夏、2部は2016~19年夏の話だ。実は1部は川上さんの芥川賞受賞作「乳と卵」をリライトしたもの。未読なのでどう変わったのかは定かではないが、主人公夏子の貧乏話から始まって、姉巻子の豊胸手術の話、突然話さなくなった巻子の娘緑子の話などなどなど、大阪弁が飛び交うこの1部はすこぶるおもしろい。そこには作家になりたくて10年前に大阪から東京に出て来た30歳の夏子がいる。そして、この1部は確実に2部へと繋がっている。だからこそのリライトなのだろう。

 

 そして2部。8年が経ち、夏子は短編集を出し、それがヒットはしたものの次の作品がなかなか書けず、エッセイなどでなんとか食いつないでいる。そして、40近くになった彼女は、思っている。

「これでええんか 人生は」

 

「でもわたしはこのままいくんか ひとりでよ」

 

「わたしは会わんでええんか後悔せんのか

 誰ともちがうわたしの子どもに」

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【新刊案内】出る本、出た本、気になる新刊!  (2019.8/2週)

 

 さて、出る本、原田マハ「20 CONTACTS 消えない星々との短い接触」(8/10)出ます。な、なんかタイトルがかっこいい!そうそう、原田さん、9月に始まる「CONTACT つなぐ・むすぶ 日本と世界のアート」展を自ら企画し、総合ディレクターを務めるんですよ。これは、その展覧会に呼応したカタチの短編小説集。Amazonから内容紹介を引用してみます。

 

私はある日、私からの挑戦状を受け取った。
――20名の巨星との〈接触〉を開始すべし。

『楽園のカンヴァス』でルソーを、『ジヴェルニーの食卓』でモネを、『暗幕のゲルニカ』でピカソを、『たゆたえども沈まず』でゴッホを描いてきたアート小説の第一人者・原田マハが、キュレーターとして自身初となる展覧会を企画。
それに合わせ、以下20名の著名アーティストの真髄に迫る20作品を書き下ろしました。

猪熊弦一郎、ポール・セザンヌ、ルーシー・リー、黒澤明、アルベルト・ジャコメッティ、アンリ・マティス、川端康成、司馬江漢、シャルロット・ペリアン、バーナード・リーチ、濱田庄司、河井寛次郎、棟方志功、手塚治虫、オーブリー・ビアズリー、ヨーゼフ・ボイス、小津安二郎、東山魁夷、宮沢賢治、フィンセント・ファン・ゴッホ――。

アート、文学、映画、マンガ……
巨匠たちの創作の秘密を解き明かす、10年ぶりの書き下ろしアート短編集誕生!

 

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【映像化】明日です(8月3日)!アニメ「この世界の片隅に」地上波初放送。さらに関連番組も多数!!

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 すでにこのブログでもお知らせしましたが「この世界の片隅に」の地上波初放送が明日に迫りました。NHK総合で3日の21時から23時6分までの放送です。劇場やあれやこれやで何度も観た方も初めての方もぜひぜひ!詳しくは最初の記事を読んでみてください。

 

 

 さらに関連番組も増えたようなのでまとめて紹介しておきます。このアニメの音楽を手がけたコトリンゴさんのドキュメンタリーも明日16時20分から同じくNHK総合で再放送されます。これ僕、見逃していたのでうれしいぞ。

 


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【本の雑誌】「本の雑誌」上半期エンターテインメント・ベスト10、1位は横山秀夫「ノースライト」!!

 というわけで7月も終わりなので、そろそろブログに載せちゃってもいいでしょうか?「本の雑誌」恒例の上半期エンターテインメント・ベスト10が8月号で発表になりました。さっそく1位からダダダッと紹介しますね。

 

1位 横山秀夫「ノースライト」

2位 瀬尾まいこ「傑作はまだ」

3位  亀和田武「雑誌に育てられた少年」 

4位 荒山徹「神を統べる者」

5位 長谷川町蔵「インナー・シティ・ブルース」

6位 ドリアン助川「新宿の猫」

7位 ヘニング・マンケル「イタリアン・シューズ」

8位 吉上亮「泥の銃弾」

9位 西條奈加「隠居すごろく」

10位 コニー・ウィリス「クロストーク」

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【新刊案内】出る本、出た本、気になる新刊!  (2019.7/5-8/1週)

 このブログで外国の小説を紹介するのは珍しいのだけど、「ケイトが恐れるすべて」(7/30)は、「そしてミランダを殺す」のピーター・スワンソンの新作なので読まないわけにはいかない。まずはアマゾンの内容紹介を。

 

ロンドンに住むケイトは、又従兄のコービンと住まいを交換し、半年間ボストンで暮らすことにする。だが到着の翌日に、アパートメントの隣室の女性の死体が発見される。女性の友人と名乗る男や向かいの棟の住人の話では、彼女とコービンは恋人同士だが、まわりに秘密にしていたという。そしてコービンはケイトに女性との関係を否定する。嘘をついているのは誰なのか? 第二部で真相が明かされた瞬間に第一部を思い返し、驚きで戦慄する――。『そしてミランダを殺す』の著者が放つ衝撃作!

 

 あぁ、これもスワンソンらしい物語。ドキドキ!「ミランダ」読んでない人は「ミランダ」もぜひ読んで!この人の「才能」が分かります。僕の書評はこちら!

 

  「ほぼ日」編の「岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。」(7/30)も出ます。任天堂の元社長で55歳という若さで亡くなった岩田聡さんの言葉をまとめた本。「ほぼ日」での糸井さんとの対談はよく読んでいましたがいろいろ印象的な話がありました。岩田さんをよく知る任天堂の宮本茂さんと岩田さんと仲良しだった糸井さんの特別インタビューも収録。気になる一冊です。読む!

 

◯詳しくはこちらから。ほぼ日で買うと特典もあります

 

 

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【映像化】又吉直樹原作「劇場」の映画化が決定。2020年公開!主演は山崎賢人と松岡茉優

 又吉直樹の長編2作目「劇場」の映画化が決まりました。「火花」も好きでしたが僕はこの「劇場」も気に入っています。書評、書いているので読んでみてください。

 


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【書評】佐藤多佳子「明るい夜に出かけて」-SNS時代のつながりをリアルに描いた青春小説の傑作!

 2017年の山本周五郎賞受賞作品。文庫で読みました。これはいいなぁ、もう少し早く読むべきだった。深夜ラジオ、それも実在した「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」のハガキ職人という設定の冨山が主人公。彼はいろいろあって大学を休学し、東京の実家を離れ、横浜の金沢八景で一人暮らしを続けている。実は冨山、接触恐怖症で特に女性が苦手。それが遠因となり、ちょっとした事件があり、SNSで拡散され、という流れで、とにかく彼は深く傷ついている。

 

 深夜のコンビニで働きながら、「アルコ&ピース」を聴きながら、冨山はただただ日々をやり過ごしている。彼の心はずっと夜の闇の中を彷徨っている。

 

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