また、本の話をしてる

おすすめ本の紹介や書評、新刊案内など、本関連の最新ニュースを中心にお届けします。

【文学賞】第29回Bunkamura ドゥマゴ文学賞は小田光雄「古本屋散策」に決定!

 毎年「1人の選考委員が選ぶ」というユニークな文学賞、Bunkamuraの「ドゥマゴ文学賞」。「日本語の文学作品」という規定はあるものの、ノンフィクションもフィクションも選べるので選考委員はなかなか大変らしいです。今年の選考委員はフランス文学者で古書コレクターでもある鹿島茂さん。古書関係の著書が多く、書評のアーカイブも主宰されています。

 

 そんな鹿島さんが選んだ今年の受賞作品は織田光雄さんの「古本屋散策」でした。パチパチパチ!これちょっと話題になっていました。タイトルだけだと手軽なエッセイ集みたいな感じもしますが、選評や目次を読んでみるとそんなことはなさそう。なかなかディープな内容です。まずは、アマゾンの内容紹介を引用してみましょう。

 

人と本と古書店を繋ぐ 蒐集した厖大な古書を読み込み、隣接する項目を縦横に交錯させ、近代出版史と近代文学史の広大な裾野を展望する。『日本古書通信』に17年間にわたり連載した200編を集成!戦前・戦中・戦後の知を横断する!

 

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【書評】チョ・ナムジュ「82年生まれ、キム・ジヨン」-これは世界中のすべての女性の物語だ

 韓国ではもちろんのこと日本でも大ヒットしている話題作をようやく手に取った。ううむ、もう少し早く読めばよかった。この小説、ちょっと前に書評をあげた川上未映子の「夏物語」ともリンクしていて、男女を問わず、今多くの人に読まれるべき物語だ。

 

 まず注目すべきは文体だと思う。あ〜この人、こういう書き方をするんだ、と思いながら読んでいくと最初の章の終わりで、これは精神科に通う主人公キム・ジヨンの担当医によるカウンセリングリポートの形で書かれていることが分かる。変に情緒的にならない表現がまさにこの物語にピッタリなのだ。ここでもうチョ・ナムジュという作家の才能を感じる。

 

 「82年生まれ、キム・ジヨン」は1982年に生まれ、2015年に33歳になった一人の女性の話だ。ここには彼女が韓国という国で生まれ、生きてきた人生の「すべて」が「まるごと」描かれている。儒教の国であるとか男子には徴兵制があるとか韓国独自の理由もあることはある。しかしこの物語は、国の違い、時代の違い、文化の違いなどを超えた「世界中のすべての女性の物語」であることは間違いない。

 

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【絵本/感想】ヨシタケシンスケ「ころべばいいのに」-きらいな人がいたって、僕らはちゃんと生きていける!

 ううむ、すんばらしい!自分にイヤなことをする人がいる。イヤなことを平気で言う人がいる。それだけでこの世の中は「ぜんぜん たのしくない」し、「わたしって、ダメなの?」って自分のことを嫌いになってしまう人だっている。

 

 みんな いしにつまずいて

 ころべばいいのに。

 

 思いますよね?この歳になっても僕は思いますよ。「ころべばいいのに」って!いやいや、もっともっとスゴいことを考えます。超バカでどうしようもないやつらを何人海の底に沈めたことか。で、ね、この絵本が素晴らしいのは、そんな時にいったいどーすればいいの?どー考えればいいの?ってことがちゃんと描かれていること。たとえば「れいぞうこのドレッシングをふる」とか。たとえば「マクラのためにうたをうたう」とか。って書くと、ふざけてんのか?って思われそうですが、そんなことはないっ!こうすればラクになる、こう考えれば救われる、ってことがちゃ〜〜んと書かれてる。

 

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【BOOK NEWS】なんだ?なんだ?なんなんだっ!佐藤正午「岩波文庫的 月の満ち欠け」

 いやいやいや、なんなんですか?いったいどうしちゃったんだろう?岩波文庫的?ううううむ。というわけで佐藤正午の直木賞受賞作「月の満ち欠け」、文庫になります。なるのですが、岩波文庫じゃなくて、岩波文庫的!ふざけてるわけではないようです。だって、ほらほら!上の書影を見てみてください。一番下!ちゃ〜んと岩波文庫的ってなってるでしょう。あのお堅いイメージの岩波が…。仕掛け人がいるのか、それとも佐藤さん自身のアイデアか。ホームページからちょっと引用!

 

「岩波文庫的」とは
 当初は岩波文庫への収録を検討いたしましたが,長い時間の評価に堪えた古典を収録する叢書に,みずみずしいこの作品を収録するのは尚早と考え,でも気持ちは岩波文庫という著者のちょっとしたいたずら心もあり,「岩波文庫的」文庫といたしました.

 

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【アート/書評】「原田マハの印象派物語」-画家入門、印象派入門としてもぴったり!ビジュアルが多いのもうれしい一冊

 新潮社のビジュアルブック・シリーズ「とんぼの本」の一冊。この本の中心になっている内容は「芸術新潮」2018年6月号の特集、それを再編集したものだ。ビジュアルブックだから絵の写真が多く収録されているのがいいし、サクサク読めるのがうれしい。

 

 メインになるのは「愚か者たちのセブン・ストーリーズ」と名付けられた物語たちだ。モネ、モリゾとマネ、メアリー・カサットとドガ、ルノワール、カイユボット、セザンヌ、ゴッホ、画家たちそれぞれの物語が印象的なエピソードと共に語られている。それほど長い文章ではないのだが、さすが原田マハ!とても上手くまとまっていて、彼らのことを知るにはとてもいい話になっている。文章の最後に生涯をまとめた年表があるのもうれしい。画家入門として、あるいは印象派入門として最適だし、少し上級者にも十分に楽しめる内容だ。

 

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【新刊案内】出る本、出た本、気になる新刊!  (2019.8/5週)

 さて、出た本。「停電の夜に」「その名にちなんで」「低地」などの名手ジュンパ・ラヒリの新作「わたしのいるところ」が出ました。インド系アメリカ人の彼女はずっと英語で作品を発表していたのですが、2012年に家族とともにイタリアへ移住。そして、なんとイタリア語で物語を書き始めたのです。その諸々について書いたのが前作のエッセイ集「べつの言葉で」。そして、イタリア語で初めて書かれた長編小説がこの「わたしのいるところ」!彼女の物語を追いかけてきた僕としてはこれはぜひ読みたい1冊です。

 

◯エッセイ集「べつの言葉で」の僕の感想

 

 

 出る本。石田雄太「イチロー・インタビューズ 激闘の軌跡 2000-2019」(8/28)出ます。これは2010年に文春新書から出たイチロー・インタヴューズ 」の増補版。さらに9年分、引退後のものも入ってるからなぁ。ううむ、買っちゃいそう。

 

イチロー・インタヴューズ」の感想はこちら

 

 

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【文学賞】今年の中央公論文芸賞は吉田修一「国宝」!極道の家に生まれ人間国宝まで登りつめた男の物語

 中央公論文芸賞、このブログでは紹介したりしなかったりですが、今年は朝日新聞の連載小説、吉田修一さんの「国宝」が選ばれました。パチパチパチ!これ、僕が新聞小説で最初から最後まで読んだ唯一の物語です。どうせ単行本になるのだからその時読めばいい、というのが新聞小説に対する僕のスタンスなのですが「歌舞伎」「吉田修一」という強力なワードに抗することができず毎日読んでいました。で、買わない。買ってない。ううむ、買わないんだなぁ。

 

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