ベンガル人の両親を持ち、2歳の時からアメリカで育ったジュンパ・ラヒリ。英語で綴った小説「その名にちなんで」「見知らぬ場所」「低地」などで高い評価を受けた彼女だが、イタリアに移住し、しかも、イタリア語で物語を書き始めた時は本当に驚いた。その顛末はエッセイ集「べつの言葉で」に詳しいのだが、ラヒリが英語で書いた移民たちの物語は自らのアイデンティティを探すためのものだった。では、「わたしのいるところ」はどんなテーマで書かれたのか?読む前から興味が尽きない。
長編小説ということになっているがこれは46の掌編から成るちょっと変わった作りの物語だ。主人公の「わたし」はイタリアの街の大学で働いている45歳の独身女性。「歩道で」「仕事場で」「トラットリアで」と続く小さな物語の中で、彼女は元恋人や友人や街の人々と出会い、言葉を交わし、時々あまりうまくいっていない母親の元にも出かけていく。
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