また、本の話をしてる

おすすめ本の紹介や書評、新刊案内など、本関連の最新ニュースを中心にお届けします。

【書評】ジュンパ・ラヒリ「わたしのいるところ」-イタリア語で著者が初めて書いたのは一人で生きる女性の物語

 ベンガル人の両親を持ち、2歳の時からアメリカで育ったジュンパ・ラヒリ。英語で綴った小説「その名にちなんで」「見知らぬ場所」「低地」などで高い評価を受けた彼女だが、イタリアに移住し、しかも、イタリア語で物語を書き始めた時は本当に驚いた。その顛末はエッセイ集「べつの言葉で」に詳しいのだが、ラヒリが英語で書いた移民たちの物語は自らのアイデンティティを探すためのものだった。では、「わたしのいるところ」はどんなテーマで書かれたのか?読む前から興味が尽きない。

 

 長編小説ということになっているがこれは46の掌編から成るちょっと変わった作りの物語だ。主人公の「わたし」はイタリアの街の大学で働いている45歳の独身女性。「歩道で」「仕事場で」「トラットリアで」と続く小さな物語の中で、彼女は元恋人や友人や街の人々と出会い、言葉を交わし、時々あまりうまくいっていない母親の元にも出かけていく。

 

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【BOOK NEWS】「彼女たちの中のキム・ジヨン〜韓国小説からの問いかけ〜」、今夜10時50分からNHK総合で放送!

 僕も読んでいろいろと考えることが多かった韓国のベストセラー小説、チョ・ナムジュ「82年生まれ、キム・ジヨン」ですが、関連番組が今夜放送されます。NHK総合、午後10時50分〜11時20分の30分、新しく始まった「ストーリーズ」という番組です。タイトルは「彼女たちの中のキム・ジヨン〜韓国小説からの問いかけ〜」。この小説に共感した日本の女性たちにインタビューしたドキュメントです。

 

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【新刊案内】出る本、出た本、気になる新刊!  (2019.9/5-10/1週)

 出る本、恩田陸「祝祭と予感」(10/3)はですねぇ、なんとあの「蜜蜂と遠雷」のスピンオフ短編小説集!映画が4日から始まるのでそのタイミングに合わせたんだと思うけど、いやいやいや、これってズルくない?アマゾンからその内容を。

 

大好きな仲間たちの、知らなかった秘密。 入賞者ツアーのはざまで亜夜とマサルとなぜか塵が二人のピアノ恩師・綿貫先生の墓参りをする「祝祭と掃苔」。芳ヶ江国際ピアノコンクールの審査員ナサニエルと三枝子の若き日の衝撃的な出会いとその後を描いた「獅子と芍薬」。作曲家・菱沼忠明が課題曲「春と修羅」を作るきっかけとなった忘れ得ぬ一人の教え子の追憶「袈裟と鞦韆」。ジュリアード音楽院に留学したマサルの意外な一面「竪琴と葦笛」。楽器選びに悩むヴィオラ奏者・奏に天啓を伝える「鈴蘭と階段」。ピアノの巨匠ホフマンが幼い塵と初めて出会った永遠のような瞬間「伝説と予感」。全6編。

 

ひひ〜ん、これはもう読むしかない。映画も観たいぞ。

 

◯映画のホームページ!


 映画「楽園」の原作である「犯罪小説集」に続く吉田修一「逃亡小説集」(10/4)も出ます。小説集といってもすでに出版されたものからピックアップされたものではなく、「小説 野性時代」の書き下ろしをまとめたもの。「犯罪小説集」もおもしろかったのでこれも読みたいぞ。全4作。

 

 小川洋子「小箱」(10/7)は「ことり」以来、7年ぶりの書き下ろし長編小説。小川洋子ワールドは特別だからなぁ。少し彼女の物語から離れていたのであの世界をまた堪能したいと思っています。アマゾンの紹介文

 

死んだ子どもたちの魂は、小箱の中で成長している。死者が運んでくれる幸せ。世の淵で、冥福を祈る「おくりびと」を静謐に愛おしく描く傑作。

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【エッセイ/書評】ブレイディみかこ「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」-次から次へと問題が起こる、そこは英国の元・底辺中学校!

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 まずはタイトルがいい。これはブレイディさんの息子が自分のノートに落書きした言葉で、ラストではその真意も語られるが、このタイトルだけで強く惹きつけられる。さらに、黄色の表紙とそこに描かれた中田いくみのイラストがいい。もう少し言うならばブレイディみかこという著者の名前もなんだかいい。そんないいが重なって、これは本屋に並んだ時点ですでに気になる一冊になった。

 

 ロンドンの保育所で保育士として働きながらライターを続けているみかこさんは、20年以上前から英国の南端ブライトンという街で暮らしている。一緒にいるのは大型ダンプの運転手であるアイルランド人の夫。彼らの間に生まれたのがこのエッセイの中心人物「ぼく」だ。小学校は裕福な家の子が多いカトリック校に通った彼だが、中学では悪ガキが多い元・底辺中学(少しは改善された)を選び通うことになる。彼が目で見て、感じてこの中学を選んだ経緯もおもしろいのだがそれはぜひ本書を読んでもらいたい。

 

 英国は多民族国家である。そのために彼の周りでもいろいろな問題が浮上してくる。階級社会であることも大きい。移民問題、EU離脱問題など国自体も揺らいでいる。人種差別発言を繰り返す友人、東洋人として受ける差別、住む場所による差別と貧富の差、彼自身のアイデンティティの悩み、「あらゆる分断と対立が深刻化している」この国で「ぼく」は生きている。

 

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【新刊案内】出る本、出た本、気になる新刊!  (2019.9/4週)

 「ネコヅメのよる」がすごくおもしろかった町田尚子さんの新作絵本「ねことねこ」(9/24)出ます。表紙いいなぁ。アマゾンの紹介文を見てみましょう。

 

猫たちの姿態のおもしろさにフォーカスを当て、全部で11匹の猫の同じところや違うところ探しをしていく、楽しい絵本です。息をのむほど緻密に描かれた猫たちの生き生きとした表情やユーモラスな仕草に、子どもたちも釘付け。

 

町田さんの絵は本当に緻密でいいんだよなぁ。読もう!

 

◯「ネコヅメのよる」の感想はこちち

  そういえば「Casa BRUTUS」の最新10月号は、特集が「猫と家。」。これも気になっています。犬派で猫派でもある僕なのですが、猫は残念ながらまだ飼ったことがない。今一緒の犬は猫を天敵だと思ってるので両方は無理そう。でもいつか飼ってみたいんだよなぁ、猫も。

 

 

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【写真集/感想】今泉忠明編集「ハシビロコウのすべて」-国内7施設にいる13羽を全紹介!野生の姿も見よっ!

 廣済堂ベストムックの1冊。表紙にはユニーク写真集って書いてあるけれど、やっぱりムックって呼んだ方がぴったり。ムックにもいろいろあって、ダメダメなものもけっこう多いけれど、これは内容も充実していて、ハシビロコウファン?としては本当に嬉しい。で、このムック、監修が「ざんねんないきもの事典」の今泉忠明さんなんですよね。今やビッグネームだから変なものは出せない。今泉さん、さすがです!

 

 さて、内容。巻頭の顔のアップやうしろ頭(けっこう多彩)の写真でハートを鷲掴みにされて、そのまま野生の写真を見せられて舞い上がっちゃう。野生の彼らは孤高で何ともかっこいい。年に一度の恋の季節、オスとメスが並んで立っている姿もたまらない。彼らの生息地はアフリカの中部・東部の湿地。普段は単独行動が基本らしい。

 

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【映像化】映画「蜜蜂と遠雷」のCDがなんだかすごいことになってる!

 史上初めて直木賞と本屋大賞をW受賞した音楽小説の傑作、恩田陸の「蜜蜂と遠雷」。映画化の話は随分前に書きましたが、いよいよ10月4日公開になります。音楽を見事に文章化した作品なので、映画?どうなんだろう?って感じでしたが、作者の恩田さんはじめ、映画を観た人の感想はなかなかいいみたいです。そうかぁ、そうなのかぁ、ううむ、やっぱり映画、観てみたいぞ。

 

 で、この物語の登場人物、コンクールに挑むピアニストの中のメインになる4人、栄伝亜夜、高島明石、マサル・カルロス・レヴィ・アナトール、風間塵。それぞれ個性豊かな若者でしたが、なんと原作に登場するコンクール演奏曲などを若手の実力派ピアニストが演奏した4枚のCDが出ています。「河村尚子 plays 栄伝亜夜」「金子三勇士 plays マサル・カルロス・レヴィ・アナトール」「福間洸太朗 plays 高島明石」藤田真央 plays 風間塵」という4枚です。

 

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