さて、もう1冊、イチロー本を。文春新書から出た「イチロー・インタヴューズ」。イチローへのインタヴューを元にスポーツジャーナリスト石田雄太が記事にし、それをまとめたものだから厳密に言うと「インタヴュー集」ではない。とはいえ、これは、イチローファンはもとより、大リーグファン、野球ファンにとって宝物のような1冊だ。ほとんどが雑誌「Number」に載ったもので、僕も掲載時に多くを読んでいるのだが、大リーグですでにレジェントになろうとしている選手がこれほどすべてを明かせるものかと驚く。その思いは1冊を通して読むことでさらに強まるのだ。村上春樹が今年インタヴュー集を出すようだが、価値としては十分それに匹敵するような気がするのだが、どうだろう?
ここに収められているのはメジャー移籍が決まった直後の「第二章の始まり」から王さんとの対談をまとめた今年4月の「超えた者だけ見える道」までの全30編。その間には2度のWBCがあり、大リーグの9年間がある。取材者である石田との関係が良好なのかここでのイチローは饒舌である。しゃべれる相手だからしゃべるのだ。石田雄太というジャーナリストがイチローの側にいることに僕らは感謝しなくてはならない。
「イチロー・インタヴューズ」ではまさに様々なことが語られるがその中心となるのは打撃のことである、最高の打者が語ることでわかるのは、バッティングの奥深さだ。深いだけではなく、迷路のように入り組んでいる。昨日の好感触が今日になれば失われ、昨年つかんだかに思えた奥義が今年は不振の原因になったりする。打つことには「理想」なんてないんだな、たぶん。そして、そういうもろもろを徹底的に分析し、きちんと言葉にすることができるイチローの能力!これもまたスゴい。英訳して全米で売り出せ!メジャーファンが腰を抜かすに違いない。
◯2019年に引退後のロングインタビューまでをまとめた1冊が出ました。
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