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【書評】宮部みゆき「おそろし」-早くも円熟の境地?心理描写、情景描写が冴え渡っていて本当にすごい

 宮部みゆきっていったい何歳なんだろう?と思って調べてみたら今年で49歳。この小説を出した時点では48。48でもう円熟期に入っちゃったのか…。そう思うぐらいこれは巧い。彼女の場合、ファンタジーからミステリー、時代小説まで幅広い分野を手がけているが、特に時代小説がいい。巧みな語り口が時代物にはぴったりだ。この「おそろし」についていえば、心理描写、情景描写が冴え渡っていて本当にすごい。「円熟の境地」…だよなぁ、これはもうそうとしか言いようがない。

 

 この物語、副題は「三島屋変調百物語事始」。宮部みゆきによる「百物語」の始まりだ。主人公はおちかという17歳の少女。ある事件をきっかけに心を閉ざす彼女は、江戸の叔父夫婦のもとに身を寄せている。働くことでなんとか自分をごまかし生きているおちか。そんな彼女を見て叔父の伊兵衛は、様々な「不思議な話」を持ってやってくる客の話を聞いてくれと頼む。叔父は話を聞かせることで、おちかの心を解きほぐそうとしているのか。訪れる客はおちか同様、心に深い闇を持つ者ばかり。何かを忘れることができず惑い、苦しみ、途方に暮れている彼らの哀しみの深さが心を打つ。そして、おちか自身も…。連作で5つの物語が収められているが、大団円となる最後の話がなんともすごい。

 

 時代小説をあまり読まないという人にも宮部みゆきはおすすめ。これは時代物であり、ミステリーであり、怪談であるけれど、結局は人情話なのだ。真ん中にあるのは人の心なのだ。だから、どんな人にもまっすぐに届く。ぜひ一読を。

 

◯角川から単行本で出てていたものが新人物往来社から新書として出るので紹介しました。12日発売予定。さらに7月25日にはシリーズの続編で読売新聞の朝刊に連載されていた「あんじゅう 三島屋変調百物語事続」も刊行予定。これは楽しみだぁ。

 

◎「おそろし」は2012年4月、角川文庫で文庫化されました。

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