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【書評】川上弘美「どこから行っても遠い町」-平凡さの中に危うさが漂う。登場人物のダブらせ方が巧みな連作短編集

 連作短篇といってもその「連なり」にはいろいろなスタイルがある。川上弘美のこの小説は東京にある小さな商店街が舞台、そこに住んだり関わったりしている人々が各々の話に登場する。もちろん人物がダブっていたりするのだが、そのダブらせ方が何とも巧い。さすが川上弘美だ。彼女のある種の小説のように、ここでは大事件などは起こったりしない。平凡な商店街の平凡なお店に住む、平凡な人々の平凡な日常が描かれる。が、しかし、その平凡さの中にはどこか危うさがあり、虚と実がないまぜになっている。だからこの町はけっしてリアルな感じはしない。川上弘美ワールドのために作られた町なのだ。表紙の絵は谷内六郎。彼の絵にも彼女の小説と同じにおいがするので、これはまさにぴったりの選択、なんだかとてもいい。

 

 平凡な主婦とヘンに気が合う姑を描いた「長い夜の紅茶」が秀逸。魚屋「魚春」を舞台にした最初の物語「小屋のある屋上」が最後の「ゆるく巻くかたつむりの殻」につながり、優しく全体を包み込む。魚屋で同居する男2人、平蔵と源二、そして平蔵の妻真紀の物語は寂しくて哀しくて、でもとても温かい。

 

◎「どこから行っても遠い町」は2011年9月1日、新潮文庫で文庫化されました。

2010.8.3 一度熱中症になるとまたなりやすい、などとネットに書いてあったので、ちょっとビビりながら暮らしてる。夏なんて体調万全の日は少ないのだが…。ちょっとダルかったりしたら水、水って感じ。

 

 

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