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【書評】佐藤多佳子『黄色い目の魚』-青春小説を越えた青春の物語!絵を描くことから生まれる2人の関係が新鮮だ

 佐藤多佳子の『黄色い目の魚』、高校生の男女が主人公だから普通に「青春小説」と呼んでもいいのかもしれない。しかし、主人公2人の強さ、たくましさが何ともすばらしく、また、2人を結びつけている「絵を描く」という行為、描く、描かれるという関係を通して、2人が互いを認めあい、好きになっていく過程、その有り様が新しく、これは普通の青春ものとは一線を画したい物語だ。

 

 村田みのりという主人公の女の子が本当にかっこいい。学校に友だちはいないし、家でも完全に浮いた存在。それでもイジイジしないで、ピシッと生きている。相手の木島悟はサッカー部のゴールキーパーだが、そちらの方は自信もなく、まったくダメ。ただ死んだ父親譲りの絵の才能がある。でも、彼が描くのは人の欠点をデフォルメしたような落書きみたいな絵ばかりだ。そんな木島が授業でたまたま正面に座り、描くことになった村田みのりに惹かれていく。「村田って、こんなふうだったっけな? すげえ難物だな」「外見からくる第一印象は「妥協しねえ」って感じ」。

 

 その後も木島はみのりを描く。どんどん描く。その中で様々なことに気づき、新しい関係を築いていく。そのプロセスがなんとも気持ちいいのだ。みのりの叔父さんのイラストレーター通ちゃんや木島たちのアイドル似鳥ちゃんなど、まわりの人物の造形も見事だ。

 

 連作形式の最後の章「七里ヶ浜」は感動的。ジーンと来るし、ピュアな気分になれる。後味がとてもとてもよく、この主人公たちのことはちょっと忘れられそうもない。佐藤多佳子、やっぱりこの人はすごい。

 

               ◯ ◯

 

2010.8.7 この夏はほとんど外に遊びに行ってない。見たい映画や美術展もあるのだけど…。理由は犬がいるからだ。ノーエアコンの我が家、夫婦2人で出かけると犬は閉め切った室内で数時間過ごすことになる。それが心配。というわけで、早く涼しくならないかなぁ。

 

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