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【書評】小林信彦「うらなり」-一人の知識人の人生とそこから照射される「坊っちゃん」の時代

 うらなり、といえばご存知、漱石の「坊っちゃん」に登場する超地味な英語教師である。小説が有名なだけに、野だいことか赤シャツとか山嵐と同様にこのうらなりってあだ名を持つ男のことは人口に膾炙してはいる。しかし、なんでまた小林信彦が「うらなり」なんだろう?と発売当初、大いに疑問を持ったのだが、作者のこの言葉を読んで納得した。「ぼくの考えでは、坊っちゃんの行動は、うらなりから見たら、まるで理解できないのじゃないかと思うのですよ。不条理劇みたいでね。その、うらなりから見た(坊っちゃん)を書いてみたいのですよ」。小林さんも江戸からの老舗の和菓子屋の息子。江戸っ子の坊っちゃんを他者の目から描いてみたい、という気持ちはよくわかる。

 

 しかし、この物語、それだけではない。「坊っちゃん」のあのストーリーを別の視点で描くと共に、その後のうらなりこと古賀の人生をも描いているのだ。冒頭は昭和9年の銀座、古賀と堀田(山嵐)との再会の場面から始まる。2人の話の中で、回想場面になり、うらなりのその後の人生が語られてゆく。明治、大正、昭和を生きて来た一人の知識人の人生。そこから照射される「坊っちゃん」の時代。久々に知的好奇心をくすぐられた小説だった。文体もまた素晴らしい。

 

2010.8.17 東京は3日連続の猛暑日。いやぁ、もう何だかわかりません。愛犬ひなたもグッタリだが食欲だけはやたらとある。さすが食い意地ハリーである。

 

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