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【書評】森絵都「永遠の出口」-構成から心理描写、背景描写まですべてにおいて長けた傑作青春小説

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 「永遠の出口」、小学校三年から高校卒業まで逡巡しながら成長していく紀子という一人の少女を描いた連作小説だ。作者の森絵都はこの小説を2003年に発表するまで、長年の間、児童文学で活躍していた人だけあって、構成から心理描写、背景描写まですべてにおいて長けている。青春を描くことはけっしてやさしいことではない。ヘンに感情移入するとウソっぽくなるし、実際にはテレビドラマのような出来事は起こらない。日常のディテールをしっかりと描かないと確実に絵空事になってしまい、主人公の気持ちもきちんと伝わらないのだ。

 

 しかし、この作者なら大丈夫。「永遠の出口」でもストーリーを非常に丹念に描いているし、主人公はじめその友だち、家族のキャラもしっかりと立っている。少しだけ作った感じがあるけれど気になるほどではない。

 

 この小説で描かれている、同級生との諍い、和解、初めての恋、家族とのあれこれを読んでると、自分の小学生時代、中学、高校時代のいろいろなことが蘇ってくる。それだけこの物語はリアルなのだ。作者は68年生まれで背景として70年代、80年代の風俗等も描かれているのだけどそのあたりもなかなかいい。この後、「風に舞い上がるビニールシート」で直木賞も受賞した森絵都の記念碑的な一冊。青春のただ中にいる人からそんな子供の親世代までぜひ読んで欲しい傑作小説だ。

 

2010.8.20 昨日、今日とちょっと涼しい日が続き一息つく。昨日は目黒の東京都庭園美術館で「有元利夫展 天空の音楽」を見る。これはいいですよ。見たことない作品もけっこうあった。短いながらも至福の時。

 

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