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【書評】宮部みゆき「あんじゅう」-暗獣=くろすけの存在のあわれさ、せつなさが心を打つ

 「おそろし」に続くシリーズ2作目。まずは3つの「うまい」。タイトルがうまい「あんじゅう」は「暗獣」である。中の話のタイトルは漢字になっている。それをひらがなにしたのは本当にうまい。イラストがうまい!新聞小説で毎回入った挿絵をうまくデザインして入れている。南伸坊のイラストは作品世界をアシストしていて素晴らしい。そして、最後、「序」がうまい。初めて読む新聞の読者に主人公おちかが百物語を聞くようになった顛末を説明しているのだが、その手際のよいこと!見事と言うほかない。

 

 さて、4つの物語でできたこの小説、「おそろし」に比べると軽めな話が多い。どれも好きなのだが「暗獣」にはすっかりやられてしまった。誰もが怖がって近づかない幽霊屋敷に一人ぼっちで住むもののけ。そんな屋敷にわけあって住むことになった老夫婦、ある日、彼らは出会ってしまう。妻初音の小娘のような、好奇心旺盛で恐れを知らぬ性格もあって、しだいに交流を深めていく2人と1匹。そのもののけは「くろすけ」と呼ばれるようになり、夫婦は彼?をとても大切に思うようになる。そして…。くろすけの存在のあわれさ、せつなさが心を打つ。最後は本当に号泣もの。これはもう思い切り泣くしかない。僕もちょっぴり涙し、心の中でワンワン泣いた。

 

 あとの3編も心に残る話ばかり。前作「小暮写眞館」もそうだが、宮部さんの小説は幽霊やもののけが出て来ても、怪異な現象が起こっても、真ん中にはいつも「人間」がいる。だからこそ、その物語が読む者にしっかりと届くのだ。今回から三人組のいたずら小僧や巨漢の偽坊主、おちかも気にする凄腕の若侍など、助っ人たちも登場してシリーズのこれからも期待できそう。

 

 あ、最初の「うまい」にもうひとつ。宮部みゆきは終い方もうまいっ!ハッピーエンドにしても何にしても、物語の終わりが心にジンとしみるのだ。というわけで「あんじゅう」、何はともあれ、泣きましょう!!

 

◎「あんじゅう」は2013年6月、角川文庫で文庫化されました。

2010.9.16 昨日、今日と東京地方はヘンに涼しい。雨降ってるし。猛暑からこんな天気になると、猛暑後遺症が心配。大丈夫かなぁ…。あ、忘れてた、うちの愛犬ひなたが昨日で4歳に。ブログも見てね。

 

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